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ピンクバレンタインイメージ

『君の名は。』などを手がける映画プロデューサー、『世界から猫が消えたなら』などを執筆する小説家として活躍する川村元気さん。一昨年に手掛けた、ロッテ創業70周年記念アニメ「ベイビーアイラブユーだぜ」は、公開約1年で1500万回を超える再生数を記録。ロッテのお菓子をキャラクター化したアニメーションが大きな話題を呼びました。今年はバレンタイン企画「ピンクバレンタイン」のプロデュースを担当。なぜ「ピンク」と「バレンタイン」を掛け合わせたのか、ものづくりにおける川村さん独自の視点に迫りました。

創作のネタ元は「違和感ポケット」

——映画プロデューサーとしてキャリアをスタートされた川村さんですが、今では小説家、絵本作家、脚本家、映画監督と多分野で活動されていらっしゃいます。これほどお仕事の幅が広がったのには何かきっかけがあったのでしょうか。

映画は、文芸、アート、音楽といった多くの要素が含まれているメディアです。制作段階で小説家やアーティストといった方々にお会いするうちに、僕自身も、この様々な要素を取り出してやってみたいと思うようになったのがきっかけですね。

——いつごろのことですか?

映画『告白』『悪人』(2010年)、『モテキ』(2011年)を作ったころでしょうか。当時は映画に対して“やりきった感”もあった。同じことをやっていると飽きちゃうので、違うことをやりたくなりました。前からお声掛けいただいていたこともあり、小説『世界から猫が消えたなら』を書いたのですが、幸いなことにベストセラーになり小説家としての道ができました。そうしたら、映画に対しても実写ではなく、アニメーション映画を作りたいと思うようになり『君の名は。』という作品につながりました。色々なことに挑戦することで、それぞれの仕事に対する客観的な視点ができ、好循環を生み出している気がします。

——それにしても多才です。映画の企画・プロデュースと、小説や絵本の文章をつづることとでは、作業がずいぶん違うように思います。

僕の場合、「こういう物語をやりたい」というのがまず先にあって、その物語の世界観に合うアウトプットは何だろうかと考え、決めていきます。自分が物語を書き、絵を描く人と組んだほうが、伝えたい物語をうまく表現できるだろうと思えば絵本を選ぶし、テキストだけで表現できそうなら小説を選ぶ。やはり映像がいい、俳優と作りたいと思えば実写になります。よく、「映画を作るのと小説を書くのとでは、使う“脳”が違うのでは?」と聞かれるのですが、僕にとっては映画も小説も絵本もあまり変わりはないんです。

——「やりたい物語が先にある」と伺いました。小説を映画化することもあると思うのですが、その場合は、求めている物語に近い小説を探すところから始めるのでしょうか?

多いパターンとしては、“今の自分の気分にフィットする小説”と出会ったときに、自分がやりたい映像表現がその小説にあるかを考えていきます。例えば、映画プロデューサーとしてのデビュー作『電車男』は、インターネットから生まれた物語を探しているときに見つけた作品でした。今でこそ『ソーシャルネットワーク』などネットを題材にした映画は増えていますが、当時は世界中どこにもなかったので、真っ先に映画化したいと思いました。

——最近は、オリジナルストーリーの映画を多く手掛けていらっしゃいますね。

そうですね。僕は“今の自分の気分”が大事だと思っていて、自分の気分と世間の気分はどうつながっているのか、ということを常に気にしています。世間は潜在的には何を思っていて、何を考えているのかを突き詰め、小説を書いたりオリジナルストーリーを企画したりして映画を作っているわけです。僕が感じている今の気分を表現してくれている小説が先にあれば楽なのですが、なかなかそうはいきません。もちろん映画『悪人』や『怒り』でご一緒した吉田修一さんみたいに天才的に時代の気分を物語にしちゃう人もいて、そういう方と巡り合えることもあるのですが、見つからないなら自分たちで物語から作るしかないのかな、と。

——今、お伺いした「自分の気分が世間の気分とどうつながっているのか」が、川村さんのものづくりの根幹にあるのだと思いますが、常に気にするのは大変ではないですか?

『世界から猫が消えたなら』
川村元気 著/小学館文庫 刊
https://www.shogakukan.co.jp/books/09406086

特別なことはしていません。僕には「違和感ポケット」と呼んでいるポケットがあって、そこに気になったことをぽこぽこっと入れていくだけ(笑)。例えば、以前、スマホを落としたことがあって、家族に連絡するために公衆電話の受話器を取ったのですが、誰の電話番号も覚えていなかった。昔なら、家族はもちろん、好きな女の子の番号も覚えているのが当たり前だったのに、まったく数字が出てこない。これは面白い!と、違和感ポケットに入れました。また、その日電車に乗ったら、偶然にも窓の外に虹が出ていた。でも、まわりの人はスマホばかり見ていて虹に気がつかない。僕はスマホを落としたから虹を見ることができた。「何かを得るには何かを失わなければいけない」という真理に気づいて、これも違和感ポケットに入れました。このときのことが、小説『世界から猫が消えたなら』の「世界から一つのモノを消したら一日命が延びる」という物語の設定につながったのです。生きていると、変だな、面白いなと思うことはたくさんあります。町を歩けば、なぜ、こんな人気のない場所にドーナツ屋があるのか?ということだって気になるし。だけど多くの人は気にしていない、というか、気になってはいてもスルーしているのだと思います。でも僕はいちいち気になるので、ポケットの中身はたまっていきます。このインタビューのテーマは「創る」なのであえて強調しますが、「何を創るか」より、「何に気づくか」のほうがはるかに重要だと思っています。この世界の気分に気づくとか、日常に起きている違和感に気づくとか、そっちのほうが大事なんじゃないかと。僕はそれを、「集合的無意識」と呼んでいるのですが、みんなが気にしているのに、なぜか言葉になっていない、表現されていないことに気づきたい。その気づきを、作品を通じて描きたいと思っています。

——絵本『ムーム』もまさにそうですね。誰もが思っていそうなことだけど、これまで表現されてこなかった世界が描かれているように思います。

『ムーム』の物語は、小さい頃、親に買ってもらい、大事にしていた白い財布を買い換えたときの体験が元になっています。新しい黒の財布にお金やカードを移し、ふと白い財布を見たら、小さくしぼんでしまい「死んじゃった」と感じました。まるで魂が抜けたように思えた。それを僕は、単に財布が古くなっただけではなく、僕と財布の間にあった気持ちというか、思い出が抜けてしぼんだのだと解釈しました。『ムーム』という作品は、そういうモノと持ち主の間に存在する“思い出”をキャラクターにして描いた作品です。新しい携帯を買ったら、以前の携帯が急に古びて見えたとか、使わなくなった手帳が急に生気が抜けたように見えたなど、僕が白い財布に感じたような気持ちって、世界中の誰もが経験していると思うんです。だから誰かに話すと、99%の人は理解してくれる。つまり、分かりやすく物語化すれば、うなずいてくれる人がたくさんいるということです。そういうものを僕は常に探しています。

複合的な要素が重なって強い物語ができる

——小説についてもう少しお聞かせください。近著は記憶をテーマにした『百花』です。

小説は約2〜3年かけて取り組むので、一つのテーマやアイデアではとうてい乗り切れません。『百花』の場合は、ずいぶん前から“記憶”の物語を書きたいと思っていて、まずは取材に取り掛かりました。真っ先に出てきたのは認知症の話で、さらに取材を進めると、人工知能の話が出てきました。人工知能は記憶の集積ですから。すると、間もなくして祖母が認知症になった。そこで、僕はこのドキュメントを書くのかなと思っていたのですが、祖母と向き合ううちに、僕自身も無意識のうちに記憶の書き換えをしていることに気がついた。だったらそれらを主題に書こうと思いました。小説って、要素が複合的に重なって出来上がっていくもので、取材を重ねることで分厚くなっていく。映画もそうですが、僕は、複数のテーマが必然的に一つの物語として成立していくことを目指している。だから強い物語になるし多くの方に伝わる作品になるのだと思っています

『百花』
川村元気 著/文藝春秋 刊
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163910031

——過去のインタビュー記事のなかで、「小説を書く際は、映像に出来そうにないものを書く」というお話をされていましたが、そのあたりは意識されながら書くのですか? とはいえ、実際には川村さんの小説『世界から猫が消えたなら』も『億男』も映像化されているわけですが……。

映画畑の人間ですから、小説を書くときは、あえて映画が苦手とする表現、小説でしかできない表現をしてみたいと思ったんです。『世界から猫が消えたなら』のタイトルがまさにそれで、「世界から猫が消えたなら」という文字を読めば人は頭のなかでその世界を想像してくれるけど、「猫が消えた世界」を映像にするのはかなり難しい。そういう表現の“エアポケット”みたいなものを使って小説を書いたら楽しいだろうな、と。ただ、僕が「映像では難しい」と思っていても、実際には映像化されることもあって、映像の方々が解釈を加え、うまく表現してくれます。作品自体がジャンプアップできているように感じられてうれしいですね。

——小説家デビューを果たしてから、映画と小説、それぞれの表現法の違いを意識することは増えましたか?

それぞれのメディアが持つ武器みたいなものは意識するようになりましたね。『バクマン。』ではサカナクション、『君の名は。』ではRADWIMPSを音楽に起用しましたが、映画では映像の中心にあえて音楽を持ってくるようになりました。小説を書くようになり、改めて映像のアドバンテージは、音と映像が組み合わさったときに生まれる快感というか、快楽性にあるのだなと感じたからです。当たり前のことですが、小説では音が鳴らせません。ここで音楽が流れれば盛り上がるのにと、何度思ったか(笑)。だから、メロディーが欲しいと思う箇所では、文体でリズムを作り、音楽を奏でているように、歌詞を紡ぐようにして書いています。

今のバレンタインの気分は“ピンク”

ロッテ創業70周年記念に制作された「ベイビーアイラブユーだぜ」

——川村さんは、ロッテ創業70周年記念に制作された「ベイビーアイラブユーだぜ」に続き、今年は「ガーナ」のバレンタイン企画でプロデュースを担当されていらっしゃいます。どういう経緯で携わることになったのでしょうか。

「ベイビーアイラブユーだぜ」を手掛けたのは、ロッテの方から70周年記念プロジェクトで、ロッテの未来につながるような楽しくてワクワクするものを表現したいというお話をいただいたのがきっかけです。僕は、広告を作るときも映画や小説と同じで「何に気づけるか」ということが大事だと思っているので、まずはロッテのお菓子を全種類食べるところから始めました。社歴を読んだり、ロッテの牛膓(ごちょう)社長からお話を伺ったり、社員の方々ともお話しさせていただきました。そうすることで見えてきたのは、創業以来、70年という歳月によって、これだけのブランドが生まれたということ。日本人で「コアラのマーチ」も「ガーナ」も食べたことがない人って想像できませんよね。そのくらい多くの人に愛され続けている。だったら、ブランドをキャラクターにしてアニメーションを作ろう。そこに行き着きました。『インサイド・ヘッド』という、人間の5つの感情をキャラクターにしたアニメーション映画があるのですが、その映画のように、お菓子をキャラクターにしてそれ自体を70年間の集積に見立てたら面白いかなと。「クーリッシュ」ならチアリーダー、「ブラックブラック」なら渋いシニアな夫婦といったようにキャラクターを作っていきました。面白いモノができたし、やり切った感はあったのですが、最近のバレンタインデーは盛り下がっているというお話を伺い、興味が湧きました。実は僕も、バレンタインデーがハロウィンに押されているな、と思っていて。義理チョコをやめようといったキャンペーンまで出てきている状況が気になっていました。

——川村さんの違和感ポケットのなかに、盛り下がり気味のバレンタインデーが入っていたのですね。

はい。僕の学生時代はあんなに大事な日だったのに、なぜここまで盛り下がってしまったのか、という違和感ですね。なので、まず世の中の気分を調べました。ロッテのリサーチ力が素晴らしく、多くのデータを集めていただいたのですが、そもそも手作りチョコは大変で面倒くさい、男子からすると重すぎるといった声が聞こえてきました。スマホで何でもできる時代に「面倒くさい」「重すぎる」といった時代の気分が見えます。その一方、学校の中には楽しみにしている男子も頑張って作っている女子もいる。つまり、クールな人もホットな人もいる。この状況こそが今なのだとわかってきた。義理チョコもあるし、本命チョコもあるし、作りたい人もいるし、関わりたくない人もいる。しかしながら、実のところの大多数は「そのはざまにいる決めきれない人」なのでは、と。この状況をアニメーションにしようと思ったんです。そもそもクールな人に向かって「いいでしょ?」と攻めたところで響かない。「僕たちはこういう状況はわかっています」というところから始めたらいいのでは?と提案させていただきました。

ガーナピンクチョコレート
ガーナピンクチョコレート

——ガーナはこれまで赤をテーマカラーとしてきましたが、このバレンタイン企画では、初めてピンク色のガーナが誕生しました。なぜピンクなのでしょうか?

ピンクは“価値観の混ざり合い”を象徴しています。これまでガーナのプロモーションで登場していた3人娘の設定はそのまま使わせていただきつつ、やる気のあるレッドの女の子・茜と、ちょっと冷めちゃっているホワイトの女の子・雪絵。そして、価値観が違う2人に挟まれて私はどうしようと困っているピンク色の女の子・桃という3人娘を設定しました。3人はとても仲がいいけど、違う価値観を持っている。ここが今の時代の状況です。赤と白を混ぜるとピンクになりますが、それを価値観の融合に見立ててテーマにした“ピンクバレンタイン”の提案です。『君の名は。』はブルーだったように、僕は映画でも色をテーマにするのは割とやっていて、色で攻めるのもありじゃないかと。他社でもピンクはテーマになっていない色ですし、単純にバレンタイン(恋愛)の色としてもわかりやすいと思いました。

——ピンクは川村さんのアイデアだったのですね。それにしても、ブランドカラーを変えてしまうというのは大胆な発想ですね。

ピンクをテーマにしたいとお伝えしたら、「ガーナって赤なんです。バナーも赤なんですよ」と、皆さんがざわつき始めて(笑)。ピンクだからいちご味のガーナも作って欲しいとお願いした際には、「工場が……、生産ラインが……」って。そりゃそうですよね(笑)。

——いちご味も川村さんのご提案なのですね。

いちごが好きなんです。一番好きな果物がいちご。いちごを嫌いな人は、あまりいないでしょう。いちごって凄いですよ、おいしいし、ビタミンは豊富、ビジュアルはいいし、ミルクと混ぜるとピンクになる、あの色もいいじゃないですか。そう強く思っていたので、ピンクガーナが棚に並び、その時期だけいちご味のガーナがロッテの顔になるなんてどうでしょうとお話ししました。社長だったら何とかしてくれるんじゃないかとバカなふりをして言ったら、何とかなりました(笑)。先ほど、小売りからの注文が昨年の倍以上を記録したと教えていただいたのですが、おそらく小売りの方々が今のバレンタインの気分を感じてくれたのかなと思います。この時期のガーナチョコレートの包み紙は、全部ピンクにするというユーモアも含めて、一緒にやっていただいた。すごく面白いことをやらせていただいたと思っています。

——最後に、今後のご活動についてお聞かせください。海外でのご活動が増えそうですか?

そうですね。映画のリメイク版やオリジナルストーリーの展開、小説の外国語版での出版がメインになるでしょうか。今までは日本語で映画や小説を作ってきましたが、英語や中国語など、言葉が変われば物語に幅ができ、可能性も広がります。ハリウッドでやりたいというよりは、自分の物語が国外でどう受け止められるのか、ということに興味がある。今後は、海外での仕事が半分以上になっていくと思います。

川村元気(かわむら・げんき)
川村元気(かわむら・げんき)
1979年横浜生まれ、映画プロデューサー、小説家。『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『君の名は。』『天気の子』などの映画を製作。2012年、初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。米国、イギリス、フランス、ドイツ、中国、韓国、台湾などで出版され、全世界累計200万部を突破。14年、絵本『ムーム』を発表。Robert Kondo&Dice Tsutsumi監督によりアニメ映画化され、全世界32の映画祭にて受賞。18年、佐藤雅彦らと製作した初監督作品『どちらを』がカンヌ国際映画祭 短編コンペティション部門に出品された。著書として小説『四月になれば彼女は』『億男』『百花』、対話集『仕事。』『理系に学ぶ。』『ブレスト』など。

取材・文 辻 啓子

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