お腹の調子を整える効果など、食物繊維に健康に良い効果があることは皆さんご存じですよね。
しかし反対に食物繊維を摂り過ぎてしまうと体に悪い影響はないのか気になる方もいらっしゃるでしょう。
また、もし体に悪影響があるとしたら、食物繊維はどれくらい摂取するのが適切なのかもあわせて知っておきたいですよね。
この記事では、食物繊維の摂り過ぎによって起こる体への影響や、摂取基準や平均的な摂取量について分かりやすく解説していきます。
1.そもそも食物繊維とは何か
食物繊維に対してこのようなイメージを持つ方も多いかもしれませんね。
食物繊維とは食べ物に含まれている成分のうちヒトが持つ消化酵素で分解できない成分のことをいいます。
食物繊維には便の材料となったり大腸内で良いはたらきをする善玉菌を殖やしたりして腸内環境を整えてくれるはたらきがあります。
また食物繊維は水に溶けやすい「水溶性食物繊維」と溶けにくい「不溶性食物繊維」の2種類に分けられ、それぞれ異なるはたらきも持っています。
水溶性食物繊維は食後の血糖値の上昇を抑えたり、脂質やナトリウムの排泄を促したりします。
一方で不溶性食物繊維には、便の量を増やすことで大腸の粘膜を刺激して排便を促す作用があるのです。
多く含まれている 食べ物 |
はたらき | |
---|---|---|
水溶性 食物繊維 |
果物類・野菜類(ペクチン)、海藻類(アルギン酸)、こんにゃく(グルコマンナン)など | ・小腸で栄養素を吸収するスピードを緩やかにして、食後に血糖値が上がるのを抑える ・脂質を吸着して体外に排出し、血液中のコレステロール値を低下させる ・ナトリウムを排出して高血圧を予防する |
不溶性 食物繊維 |
野菜類などの植物性食品(セルロース、ヘミセルロースなど)、きのこ類(キチン)など | ・便の量を増やして大腸を刺激し、排便を促す |
食物繊維の摂取によって、糖尿病やがん、心筋梗塞、脳卒中といった生活習慣病の発症率や死亡率が低くなる、体重の増加が抑えられるといった報告もされています*1。
このようにさまざまな健康に良いはたらきを持つ食物繊維ですが、多くの日本人は食物繊維不足の傾向にあるといわれています。
健康を維持するために、食物繊維を積極的に摂取したいですね。
2.食物繊維を摂り過ぎるとどうなるの?
食物繊維の摂り過ぎで健康に悪い影響が起きないか心配している方もいらっしゃるでしょう。
基本的には、通常の食事から摂取する範囲であれば摂り過ぎの心配はありません。
現代の日本人は食物繊維が不足しがちであるため、むしろ積極的に摂っておきたい栄養素だといえます。
しかしサプリメントなどで度を超えて摂取した場合には体に悪影響が生じる可能性があるため注意が必要です。
ここでは、食物繊維の摂り過ぎによって何が起こるのかについて詳しくご説明しましょう。
影響1 栄養素が吸収されにくくなる
食物繊維のうち、水溶性食物繊維は小腸で栄養素を吸収するスピードを緩やかにする作用を持っています。
食品中の糖質や脂質の吸収も緩やかになるため、血糖値やコレステロール値の上昇を抑える効果が期待できるのです。
しかしその反面、摂り過ぎるとビタミンやミネラルなど必要な栄養素の吸収も抑えてしまう*2と報告されています。
ただしすべての水溶性食物繊維が栄養素の吸収を抑えるというわけではありません。
果物や野菜に多く含まれるペクチン、海藻類に含まれるアルギン酸など粘度の高いものはその傾向が強いという研究もされています*2。
特定の食べ物から食物繊維を摂取するのではなく、さまざまな食べ物を取り入れることが大事だといえそうですね。
影響2 下痢を起こしやすくなる
食物繊維を摂り過ぎると下痢を起こすこともあるので注意が必要です。
水溶性食物繊維は体内で水に溶けてゲル状になり、便をやわらかくしてくれます。
適度な量であれば排泄しやすくなるというメリットがあるのですが、摂り過ぎると水分量が過剰になって下痢を起こしやすくなるのです。
そのため食物繊維が含まれている特定保険用食品(トクホ)の製品には「おなかがゆるくなることがあります」などと注意が記されている場合があります。
食物繊維を含む食品は、種類や量によって「おなかの調子を整える」「糖の吸収をおだやかにする」「食後の血中中性脂肪の上昇をおだやかにする」といった用途を表示することが可能です。
影響3 便秘を悪化させる

水溶性食物繊維は摂り過ぎると下痢を起こしやすくなりますが、反対に不溶性食物繊維は便秘を悪化させることがあります。
不溶性食物繊維は、便の量を増やすことで大腸を刺激して動きを活発にすることで排便を促すはたらきを持っています。
便秘にもいくつかタイプがあります。
そのなかでも大腸の収縮が強くなって排便がしにくくなる「痙攣性便秘」の場合、不溶性食物繊維を摂取するとさらに大腸が刺激されて便秘を悪化させてしまうのです。
そのため、食物繊維の多い食べ物を摂るとガスが溜まったりお腹が張ったりしてしまうことがあるのですね。
3.食物繊維はどのくらい摂るべき?
十分な量の食物繊維を普段からしっかり摂れているのか、足りないとしたらどれくらい摂ったら良いのか気になりますよね。
ここでは、食物繊維をどれくらい摂取すべきか目安量と日本人の平均的な摂取量についてご紹介します。
3-1.食物繊維の食事摂取基準
厚生労働省では、各栄養素をどれくらい摂取したら良いかの目安となる「食事摂取基準」を公表しています。
食物繊維については、以下のように設定されています。
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
18〜64歳 | 21g以上 | 18g以上 |
65歳以上 | 20g以上 | 17g以上 |
妊婦 | – | 18g以上 |
授乳婦 | – | 18g以上 |
ただし本来であれば成人は1日に24g以上の食物繊維を摂ることが理想的だとされています。
日本人の食物繊維摂取量は理想に程遠く実現可能性が低いため、食事摂取基準は18歳以上の日本人の食物繊維摂取量の中央値と理想の目標量の中央値を参考に定められているのです。
食事摂取基準を満たしているからといって、理想的な量の食物繊維を摂れているとはいい難いのですね。
まずは1日数グラムでも多く食物繊維を摂取するよう心がけましょう。
3-2.食物繊維の平均摂取量
厚生労働省が行った「平成30年国民健康・栄養調査」によると、日本人の食物繊維の平均摂取量は以下のとおりです。
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
20〜29歳 | 12.9g | 11.9g |
30〜39歳 | 13.6g | 12.8g |
40〜49歳 | 13.7g | 12.6g |
50〜59歳 | 14.4g | 14.0g |
60〜69歳 | 16.5g | 16.7g |
70〜79歳 | 17.8g | 17.4g |
80歳以上 | 16.8g | 14.6g |
摂取目標量と比べると、男性はすべての年代で、女性は70〜79歳を除く年代で食物繊維が不足していることがわかります。
特に働き盛りの年代の方は食物繊維の摂取量がかなり少ない傾向にあるので、意識して摂取したいですね。
食物繊維を多く含む食べ物については、こちらの記事で解説していますのであわせて参考にしてください。
4.まとめ
食物繊維は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に大別され、それぞれ食後の血糖値や血液中のコレステロール値の上昇を抑えるはたらきや、腸を刺激して排便を促すはたらきを持っています。
食物繊維は糖尿病やがんなど生活習慣病の発症率や死亡率を下げるという報告もあり、健康の維持や増進のために意識して摂取したい栄養素の一つです。
しかし、度を超えて摂りすぎると栄養素の吸収を阻害したり、下痢や便秘を起こしたりする可能性もあります。
サプリメントなどで過剰に摂り過ぎないように注意が必要ですね。
ただし、通常の食事からの摂取であれば摂り過ぎや健康への影響を心配する必要はないといえます。
むしろ日本人の食物繊維の平均摂取量は目標量よりも少なく、多くの人に足りていない成分の一つでもあります。
果物類や野菜類、海藻類、きのこ類など食物繊維はさまざまな食品に含まれているので、特定の食材に偏らないようバランスよく摂取してみてくださいね。