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小梅ちゃん「初恋すとおりい」

第1話

春とはまだ名ばかりの、梅のほころびかける頃。
内気で清楚な十五歳の町娘小梅は、父親に届けるお弁当の風呂敷包みを抱えながら、長い塀の続くお屋敷町を歩いていました。

中略

ゆるやかな坂道を、小梅はときどき歩を速めながら歩いていました。
坂の上から、学生さんが歩いてきました。マントが時折風にふくらみました。
ふたりがちょうどすれ違うときに、小梅は伏せていた顔をふっと上げました。
そのしぐさに惹かれるように学生さんもふっと小梅のほうを見ました。
その、刹那ともいえる一瞬でふたりは自分たちでさえ気づいてはいませんでした。

この日、(小梅の父・植木職人の)松造はこの界隈でも大きな綾小路家のお屋敷で仕事をしていました。
お弁当を届けにきた小梅が勝手口の戸を叩こうとすると、中から「真様、いってらっしゃいまし」という声が聞こえ、木戸が開きました。
小梅の目の前に現れたのは、あの学生さんでした。

声にならない驚きが、小梅の胸をふるわせました。
小梅がまだ恋などと呼べない淡い想いを寄せた人は、綾小路家の真だったのです。

驚いたのは小梅ばかりではありませんでした。
真もまた、突然目の前に現れた小梅に、挨拶の言葉すら出てこなかったのです。

中略

速くなる鼓動を、小梅は鎮めることができません。

この物語は近代出版社刊「小梅ちゃん 初恋すとおりい」(林静一著)に収録の「小梅恋物語」(吉元由美著)を抜粋して掲載しております。原作からの<中略>箇所は中略を用いて表示しております。