彼が支店長を務める支店には、他とは少し異なる特色がある。それは、毎年数名の新入社員が必ず配属されること。そして、その大半は数年もすれば他の支店へと異動していくこと。いわば、ロッテの営業社員にとって「登竜門」的な位置づけにあり、配属となった者はここでロッテ営業のイロハをみっちりとたたき込まれることになる。とはいえ、ただ営業のテクニックを教えることが私の役割ではない、と彼はいう。
「ロッテの営業社員は最初の2~3年の間、得意先であるスーパーやドラッグストアを訪問する『店舗担当』を経験します。したがって私の部下たちも毎日、得意先の店舗を忙しく飛び回っています」。まさに、地道な取り組みを繰り返す日々。この時点で、何かしらの挫折感を味わう社員は少なくない。
「多少、得意先に顔を覚えられたところで『ロッテの売場面積を2倍に拡大していいよ』と言ってもらえることはまずありません。それだけ店舗担当は、ふだんの努力が成果につながりにくい仕事なんです。こうした環境がしばらく続くと、得意先へ向かう足取りが重たくなるのは無理のない話。そんなときに上司が『売上を伸ばせ』と尻を叩いても、モチベーションが下がるばかりじゃないですか。そもそも、無理やりに命令して目先の成果を上げさせたところで、それは本当の成功体験にはならない。大切なのは部下に『明日も頑張ろう!』と思ってもらい、自ら動きだすような活力を与えること。それができれば、支店長の役目はほとんど果たせたようなものです」。だから、単に営業成績だけで評価しない。努力しているプロセスを見る。部下たちの表情を見て、気持ちが高まる言葉を絶えず投げかける。メンバー全員に、営業が好きになってほしい。そのことに何よりも心を砕く支店長が、ロッテにはいる。

そんな彼にとって最高の喜びとはいうまでもなく、部下の成長ぶりを目の当たりにすることだ。つい先ごろも、そのような至福の瞬間が彼に訪れた。
それは、あるメンバーに営業同行したときのこと。その部下は1年がかりで得意先の大手スーパーに対して大がかりな販促の提案を行っていたものの、商談のたびにNGを出されていた。「最後のチャンス」にかける自分の姿を、ぜひ見届けてほしい。そう頼まれて、支店長みずから提案の場に同席することになったのである。
「商談が始まるや否や、私の部下は厚さ数センチにも及ぶ資料をおもむろに鞄から取り出しました。そして、先方の責任者にこう切り出したのです。『私は1年間、御社のことをこれだけ見てきました。ですから、必ずや御社の利益拡大に貢献できると確信しています』。それを受けて、先方から返ってきたのは『ずいぶん熱心に当社のことを理解してくれたんですね』というひと言でした。そうです。提案が受け入れられたのです。おそらく、お客様は提案内容の完成度を評価された訳ではありません。スマートな営業スタイルでもありません。ただ、そこには地道な努力のあとがうかがえた。考え抜いた熱意にあふれていた。その姿勢を、先方に認めていただけたのではないでしょうか」。支店長として、ひたすら頑張る部下の姿をそばで見ていた彼にとって、このときの成約ほどうれしいものはなかった。メンバーの成長こそ、彼にとって何物にも代えがたい報酬といってもいい。だからこそ、営業同行の帰り道に部下が口にした「今日は私の入社以来、最高の商談ができました」という言葉は、いまでも彼にとってかけがえのない宝物になっている。
「ただ、すくすく成長してくれていると思った矢先に、みんな他部署へ旅立ってしまうんですよね」。不満げに話す支店長の表情は、なぜか一方で、このうえなく誇らしげだった。

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