健康寿命の延伸に向けた咀嚼意識改善の普及促進に関する取り組み~高槻高等学校2年生による学会発表~

2022年10月に徳島大学で開催された「日本咀嚼学会 第33回学術大会」に於いて、大阪府・高槻高等学校2年GAコースの生徒7人が、学会からの「依頼発表」としてグローバルヘルスをテーマとした課題研究「健康寿命の延伸に向けた咀嚼意識改善の普及促進に関する取り組み」を発表しました。健康寿命を伸ばすために咀嚼と肥満予防の関係を発表したその内容について、生徒の皆さんからお話を伺いました。

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学校で咀嚼意識改善の普及促進という課題研究に取り組んだきっかけは何でしょう?

𠮷田さん:私たちは、高校1年次からグローバルヘルスをテーマとした課題研究に取り組んでいます。現在世界では医療の発達により「平均寿命」が延びていますが、健康に過ごせる期間「健康寿命」との差は約10年もあります。その差を縮めるために、私達のグループは食事と咀嚼の関係について研究しました。

【学会発表スライドより①】
世界人口80億人の中で、BMI25以上の成人はなんと20億人。この数字は近年急速に増加しています。
※肥満(BMI30以上)の成人は6億7100万人、過体重(BMI25以上30未満)の成人は13億700万人

澤さん:肥満は、全世界的に深刻な健康問題のひとつです。「よく噛んで食べることが肥満予防にもつながる」という話は日本でもよく知られていますが、私達は食事制限や運動を強制せず、誰もが実践しやすい咀嚼という肥満対策方法をわかりやすく提案したいと考えました。

植村さん:肥満対策に食事の量を減らすとか野菜中心の食事に切り替えるとかいう方法もありますが、どんな宗教どんな文化的背景の国の方でも、「よく噛む」ということはすぐ取り入れられます。そのシンプルさが訴求しやすいと思いました。

【学会発表スライドより②】
日本を例にとると、咀嚼回数は戦前の半分以下にまで減少しています。
さらに、肥満の人はあまり咀嚼しないという実験結果もあります。

日置さん:日本には、よく噛んで食べるための「ひみこのはがいーぜ」というキャッチフレーズがあります。このように世界のどんな世代の人々にもわかりやすいキャッチフレーズとロゴで、咀嚼の大切さを訴求しようと話し合いました。

「Chewing」ロゴのコンセプトについて教えてください。

【学会発表スライドより③】
咀嚼の啓発活動のために新たに作成したキャッチフレーズとロゴ。
「C」は口と歯で咀嚼、「h」にんじん・「e」キャベツ・「w」たこ・「i」きゅうり・「n」トースト・「g」ナッツと、
それぞれの文字をよく噛む食材や調理の工夫のイラストにしました。

森本さん:ロゴデザインは私が担当しました。小さい子にもわかるようにアルファベットの文字に顔と歯をつけて、よく咀嚼できる食材をイラスト化した「Chewing」というロゴに決定しました。ロゴデザインは、メンバーから感想や意見を聞いて練り上げていきました。

学会での発表の反応はいかがでしたか?

「日本咀嚼学会 第33回学術大会」での発表風景。
発表後の集合写真。写真右上より、高阪貴之助教、
池邉一典教授(大阪大学大学院歯学研究科)、
市川哲雄教授(徳島大学大学院医歯薬学研究部)

川﨑さん:学会発表にあたっては、大阪大学大学院歯学研究科の池邉一典教授や高阪貴之助教からアドバイスなどを受けました。高校生で学会発表ができるなんて、自分の人生において得難い経験ができたと思います。

森本さん:校内発表は行ったことがあるのですが、咀嚼に関わる専門家の皆さんに向かって発表するのは緊張しましたが、聴講者の皆さんからは「高校生らしくて良い発表だった」「これから大事なことだと思う」といった感想をいただきました。

岡部さん:貴重な機会をいただけたと思います。発表によって高校生も肥満について関心を持っているんだということをわかっていただけたと思いますし、その世界の第一人者の方々に向かって発表できたことは光栄でした。

今後はどのような取り組みを考えていますか?

【学会発表スライドより④】
咀嚼の大切さをわかりやすく啓発するために、日本語版/英語版のロゴカードを作成。
学内はもちろん、学会や研修先のパラオでも配付して好評を得ました。

𠮷田さん:この咀嚼に関する啓発ロゴを、国内だけではなく国外、さまざまなところで一般に広めていければと思っています。

澤さん:小さい頃からの教育が大切なので、幼稚園や小学校などで広めていきたいです。

日置さん:もともとこのロゴは、保育園や幼稚園に配付してたくさんの人に知ってもらいたいと開発しました。その点はまだ実施に至っていないので、食育の授業に取り入れてもらえるようにできればと思います。

森本さん:食材を販売しているスーパーの店頭や、商品のパッケージに使ってもらえるとより広がるのではないかと思います。

植村さん:学会発表では、企業の方から「一緒に何かできれば」というお声がけをいただいたりしました。今後企業の方々と一緒に研究を進められたら嬉しいですね。

岡部さん:僕は咀嚼の啓発活動をさらに発展させて、大学生になったら起業して新規のガムの開発を目指したいと考えています。東南アジアを中心に販売して、肥満予防と咀嚼意識の向上のために役立てたいです。

川﨑さん:2年次から個人研究になるので、僕は咀嚼と認知症との関わりについての研究を深めたいと考えています。

工藤 剛 理事・校長:生徒達は、吉田知史教諭の指導の下で咀嚼というテーマを学内のみにとどめることなく、大阪大学大学院歯学研究科の池邉一典教授、髙阪貴之助教に指導を仰ぎ、高校生ならではの新しい視点で世界の健康問題に寄与するべく成果をまとめて学会で発表できました。

また南太平洋のパラオ共和国では、同国政府関係者の支援の下でフィールドワークを実施し、パラオの保健福祉大臣へのインタビューや現地小中学生の調査、健康に関する提言書を渡すなど、ワールドワイドな啓発活動を行いました。課題研究は、2年次から個人の研究に移っていきますが、各々さらに研鑽を積んでほしいと期待しています。

本研究に取り組んだ生徒の皆さん
理事・校長と学校の図書館にて

高槻高等学校 GAコース

大阪府高槻市に旧制高槻中学校として創立以来、2023年で創立83周年を迎える、六ヵ年完全中・高一貫の私立中学校・高等学校。「グローバル教育」と「先進的な生命科学系サイエンス教育」を2軸とし、文部科学省より2016年度~2020年度スーパーグローバルハイスクールおよび2021年度~2023年度スーパーグローバルハイスクールネットワーク(SGHN)参加校としても指定されている。本発表を行った生徒達が履修するGA(Global Advanced)コースは、国際的な課題への取り組みを通して、グローバルヘルス向上を目指す次世代リーダーの育成を行う。