幼児期の心掛けが健康な歯をつくる

よく噛んで食べることは、幼児期から続けてほしい大切な習慣です。小児の発育に詳しい倉治ななえ先生は、永久歯が生える前から正しく噛めば、整った歯並びをつくれると話します。

幼児期に永久歯の土台をつくる

歯とのつきあいは、最初の乳歯が生えてくる6〜7カ月ごろから始まります。2歳半ごろには乳歯が生えそろい、3歳を過ぎると、比較的硬いものでもよく噛めば食べられるようになります。
その後、4歳ごろまでに乳歯列(乳歯の歯並び)が完成します。乳歯列は、6歳ごろから生え変わる永久歯の歯並びに大きく影響します。理想は、歯と歯の間に少しずつ隙間がある状態です。
ところが、最近の子どもたちはあごの骨が小さく、隙間のない乳歯列が多く見られます。乳歯の抜けたところに、永久歯は生えてくるのですが、最近の子どもたちは永久歯のサイズが以前より大きくなっていると言われています。隙間のない状態では、永久歯の収まるスペースが足りません。すると、狭いところに押し込められ、デコボコとした歯並びになってしまいます。
整った歯並びを手に入れるには、幼児期から、正しく噛む習慣が大切です。よく噛めば、歯並びの土台となるあごの骨が丈夫に、大きく育ちます。そのためには、全身の筋肉をつくることが基本です。姿勢を保ち、ささえる筋肉が弱いと、しっかり噛めず、あごも痛めやすくなります。体力づくりのために、幼児の頃からよく歩き、公園などに連れ出して全身を使って遊んだりすることは、歯のためにもよいことです。
「正しく噛むとは、唇を閉じて、前後、左右の歯をバランスよく使うことです。その際に大切なのが、背筋を伸ばした正しい姿勢です」

正しい姿勢の食事で整った歯並びに

たとえば、椅子に座って、足をブラブラさせて食事をすると、力が入らず、上下の歯の噛む力(咬合力)と噛み合わせ(咬合面積)が約15%弱まります。弱まった分だけ、あごの骨の成長が妨げられてしまいます。その場合は台を使って足をつけて座るとよいでしょう。頸椎が真っ直ぐになり、あごにとってベストなポジションを保てます。座敷であれば正座が基本です。
また、お母さんたちに気を付けてほしいのは、食べるときは叱りつけないことです。うなだれて猫背になると噛み合わせが悪くなり、悪い歯並びを招きます。褒めながら楽しく食事をすると、自然と姿勢もよくなります。
あごや歯を鍛えるために望ましい食材は、「きちんと噛まなければ飲み込めない食材」です。オススメは、根菜類やキノコ、干物、乾物など。これらの食材に魚や肉などを加えた栄養バランスのよい「鍋物」などにすれば、食べやすくなり効果的です。
正しく噛む習慣は、歯並びに影響するだけではなく、唾液が出ることによって、初期むし歯の予防になります。むし歯のない口内は健康の基本です。そのため、噛むことはどの世代でも大切です。
「正しく噛むには、きちんと食べることが重要ですね。大人にも同じことが言えますが、歯の健康を保つことは、正しい生活を送ることに帰結します。それは、いきいきとした人生にもつながっていくのです」
きちんと噛めることは健康の証しです。体と口をたくさん動かして、生涯健康を目指しましょう。

倉治 ななえ(くらじ・ななえ)

歯学博士
日本学校歯科医会 副会長

1979年日本歯科大学卒業後、同大学補綴学教室第2講座入局。83年クラジ歯科医院、89年テクノポートデンタルクリニックを開設し、90年から子育て歯科を開始した。2003年Dr. NANA予防歯科研究所設立。11年から4年間、日本歯科医師会常務理事を務め、16年には日本学校歯科医会副会長に就任。現在、日本歯科大学附属病院臨床教授、日本フィンランドむし歯予防研究会副会長なども務める。



ロッテ 季刊広報誌「Shall we Lotte」より