「MFF Summer Fes 2017」で、噛むこと研究室の尾崎史浩リーダーが講演

2017年8月19日(土)~20日(日)、医療系学生団体MFF(メディカルフューチャーフェス)が主催する「Summer Fes 2017」が、東京都医師会館で開催されました。医療の未来を担う学生たちが、さまざまな視点でこれからの医療について学び、交流を深めていくイベントです。このイベントに、ロッテ 噛むこと研究室の尾崎史浩リーダーが登壇しました。その講演の模様をお伝えします。

「噛むこと」にはどんな作用があるのか?

「噛むことは心身の健康によい」といわれ、子どもには発育の向上、成人にはストレスの抑制、高齢者には認知機能維持などの作用が確認されています。赤ちゃんから高齢者まで、噛むことは大きな力を発揮するのです。しかし、「なぜそうなるのか?」については、まだすべてが解明されておらず、研究が進められているところです。

創業以来ガムを作り続けているロッテでは、おいしさや味の持続という観点だけでなく、すべての年代にとって重要性の高い「噛むこと」に注目。噛むことのエビデンス(医学的根拠)などを発信、提供することによって、噛むことへの意識づけ、さらには国民全体の健康意識の向上やQOL(生活の質)の向上に寄与できるのではないかと考え、『噛むこと研究室』を設立しました。
『噛むこと研究室』では、「脳とこころ」「からだと運動」「お口の健康」「美容とダイエット」と大きく4つのカテゴリで、さまざまな研究機関や企業と連携しながら、噛むことの作用についての研究を進めています。

たとえば「脳とこころ」カテゴリでは、鶴見大学の斎藤教授と三越伊勢丹グループが実施している、噛むこととストレス低減についてのプロジェクトに参加しています。

プロジェクトの詳細はこちらのページでご覧ください。
笑顔トレーニングとチューインガム咀嚼によるストレス低減研究
〜三越伊勢丹グループ社員約10万人を笑顔にするプロジェクトの成果発表〜

そもそも噛む力とはなにか?

小学校低学年のころなど、「よく噛んで食べなさい」としかられた経験がある方もいらっしゃると思います。「よく噛んだ方がよい」となんとなく理解しているつもりでも、なぜ?と問われると曖昧な答えしか出てこない方が多いのではないでしょうか?
研究途上の部分も多いのですが、『噛むこと研究室』ではただ歯を噛み締める力(咬合力)だけでなく、噛みながらあごを左右に動かして食べ物をすりつぶすグラインディング咀嚼や、舌を使って食べ物をうまく奥歯の上に乗せる動き、頬の動き、唾液の量など、食べ物を細かくしてきちんと嚥下(えんげ)するための総合力が、「噛む力」だと考えています。

自分の噛む力をチェックしてみよう

今日は、ロッテと東京医科歯科大学の高齢者歯科の先生方と共同で開発した「咀嚼チェックガム」をご用意しました。もともとこのガムは、高齢者歯科の先生方から「それぞれの人に合った最適な入れ歯になっているかを客観的に確かめたい」という依頼を受け、入れ歯のフィッティングのために開発されたものです。各方面で反響をいただき、高齢者歯科はもちろん、現在では各自治体保健所の高齢者健康診断や、小学校の身体検査で調査項目として使われています。

それでは、実際にこのガムを使って、みなさんの噛む力(咀嚼力)をチェックしてみましょう。
緑色のガムを1分間(義歯の人は2分間)噛んで、噛み終えたガムの色を確認します。緑色の色素が抜けてピンク色に近いほど、噛む力が強いことになります。

みなさんの噛む力はどれくらいだったでしょうか?
食いしばる力が強くても、あまりガムの色が変わらない人もいて、意外と個人差が出ます。
やはり噛む力は、筋力ではなくて、総合力なんですね。

「ピンクになった!」から大丈夫と思いこんではいけません。色があまり変わらなかった方も、みなさん、色が変わるように一生懸命噛んだはずです。「食事の時にこれだけ『噛むこと』を意識しますか?」楽しい食事にしていただきたいですから、「噛むこと」だけを考えてくださいとは言いませんが、今日のチェックをきっかけに、少しでも食事のとき「よく噛んで食べること」を意識してもらえたらと思います。

現代人は噛む回数が減っている

食事に関して興味深い研究があったのでご紹介します。今から約1800年前の弥生時代の食事内容を再現し、現代の食事と咀嚼回数を比較した研究です(神奈川歯科大学・斉藤滋名誉教授の研究)。
弥生時代の食事内容は、もち米の玄米おこわ、魚の干物、アユの塩焼き、山菜、ナッツ類など、非常に噛みごたえがあり、よく噛まないと食べられないものばかりで、咀嚼回数は3990回近かったといわれています。一方、現代の食事は、ハンバーグ、ポテトサラダ、コーンスープ、パン、プリンなど、あまり噛まなくてもよい食べ物が多く、咀嚼回数は620回。実に6.4倍もの開きがありました。

噛むことは重要で、昔よりも減っている、では「1日何回噛めば健康にいいのか?」と疑問のある方も多いと思います。実は正確な回数はよくわかっていません。なぜかというと、咀嚼回数を測るのは大変で、ほとんど研究が進んでないです。雑誌やメディアに何回がよいというような記載があったりしますが、あくまで目安であることが多く、何回噛めばいいということで噛むことへの意識づけをしているんですね。

噛むことの研究の発展へ

私たちは噛むこと自体の研究はもちろん、あるメーカーと共同で、簡単に咀嚼回数を測れる機器の開発にも取り組んでいます。この機器は、いわゆる歩数計の咀嚼版。噛むときに生じる側頭筋の動きをセンサーで感知して噛んだ回数を測定します。現在プロトタイプが完成し、精度を検証中。製品として完成すれば、咀嚼回数と健康に関する研究に大きく進展できると期待しています。

「噛むことがなぜ健康にいいのか」について研究を進め、エビデンスを積み重ねていくことで、今後の医療を担うみなさんのお力にもなれれば幸いです。今日はありがとうございました。