YOIYO
AKKESHI
SPECIAL
TALK

スペシャルトーク

おいしいものを
つくるということ

厚岸蒸溜所 所長・チーフブレンダー
立崎勝幸氏
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ロッテ 中央研究所所⻑
芦谷浩明氏

YOIYO厚岸-芒種-誕生の背景には、おいしさを探求する、ふたりのプロの出会いがありました。なかなか手に入らないと噂のウイスキーをつくる厚岸蒸溜所の所長とコンビニで気軽に買えるチョコレートをつくるロッテの所長。一見大きく違う存在は、なぜ惹かれあったのか。YOIYO開発の裏話や、ウイスキーとチョコレートの魅力、おいしいものづくりの本質に迫ります。

―仕事の経歴、今に至るまで。

立崎:実は、ウイスキー業界に入ったのは、厚岸蒸溜所の立ち上げからなんです。元々は、乳業メーカー勤務で、品質管理・保証・調達・開発とすべて経験したころ、仕事で弊社社長の樋田と出会い「いつか自分でウイスキーをつくりたい」その時がきたら手伝ってくれないかと言われまして。最初はまさかと思っていたので断ったのですが、蒸溜所を立ち上げるという、ゼロからのものづくりに挑戦できることに気概を感じ東京から北海道に来ました。

芦谷:私は、子どもの頃からロッテのチョコレートが大好きで、チョコレートの開発研究をしたい一心で入社試験を受けたら、縁あって叶いました。今はマネージメントが主ですが、仕事の根本はずっとチョコづくりですね。去年の末に、研究所の中に念願のチョコラボをつくりました。こだわりが詰まった少量のプロトタイプを市場で試せるように。おいしいものをいかに効率よくつくるかは、メーカーの基本使命ですが、チョコラボはよりクラフトっぽい場です。

―ふたりの出会い

芦谷:私がコロナ禍で、ウイスキーの魅力にどハマりして本を読み漁っていた時に、共通の知り合いが引き合わせてくれました。北海道におもしろいところがあるよという話を聞いて、蒸溜所を訪ねて。そしたら、味はもちろん、つくる姿勢に惚れ込んでしまって。

立崎:芦谷さんは、丁寧に手間をかけていると言ってくれるが、あたりまえのことをきっちりやっているだけ。1つ手を抜いたら、それが味に出てしまうから。だから若いスタッフにも、僕は厳しいですよ、漫然と仕事するなと。知名度が上がったのは結果論であって、1つ1つの積み重ねでしか、おいしいものはつくれない。清掃ひとつとっても、あたり前にやるって大変ですし。ウイスキーは自然に委ねるところが大きいからこそ、手が回るところは完璧に。5年10年というスパンでつくるものだから、後で後悔しないように、ロッテさんのようなメーカーレベルの品質管理、衛生管理を小さな蒸溜所でも徹底しています。すべては、いつ飲んでも、いつ食べても、厚岸は、おいしいと言ってもらうためですね。

芦谷:そこに一番共感しました。ひとつひとつはもちろんですが、俯瞰した品質管理の考え方。おいしいものをつくり続けるのは、簡単なようでいて、実に難しいから。何か一緒にチャレンジしたいなと思いました。

立崎:僕はその時、芦谷さんがガーナを長く担当されていたと聞いて親近感が湧きました。
よく食べていて好きだったので。あれって、すごく丁寧につくってあるけど、そのことは特別アウトプットしない。それが粋なんですよ。おいしいでしょと、商品を提供しているだけ。それがかっこよくて。一緒に仕事がしたくて、社長にウイスキーを供給したいという相談をしました。

芦谷:難しいお願いなのは承知していたので、YOIYOとして商品化できるウイスキーをいただけるとは思っていなかったのですが、立崎さんのおかげでご一緒できることになりました。

―厚岸ウイスキーを動かした
試作品

立崎:だって、もう打ち合わせの時の熱量が半端なかったから(笑)。芦谷さんと室長の田所さんの熱量に圧倒されました。うちのウイスキーについても、よく調べてくださっていましたし、極めつけはあの試作品ですよね。まだ可能性があるかないかもわからない時期に。

芦谷:勝手に、試作品をつくって持っていきました。このワンチャンスにかけるしかないと思って。ネットで買った「寒露」というウイスキーでチョコレートを。

立崎:食べたら、もうさすがですよ。うちもお菓子屋さんとコラボレーションしたことはあるんですけど、このような味わいができるのはすごいテクニックだなと。1個2個の手づくりとはまた違う難しさがある。胃袋つかまれましたよね。うちの社長もびっくりしてました。これだったらと。

芦谷:1発にかけていたから、何度も改良して、僕たちとしてはベストな品質にしていました。

立崎:でも、つくってくるって逆効果なこともあるじゃないですか。食べておいしくなかったら、ねえ。嗜好品は合う合わないがあるし、うちのウイスキーはピートが効いていて個性があるから簡単ではなかっただろうなと。

―YOIYOマリアージュ
完成までの試行錯誤

芦谷:中に入っているリキッドのアルコール分の割合、シロップとの混ぜ合わせの割合、
外のシェルチョコレートをミルクにするかビターにするか。いろんな検証を重ねて、たどり着きました。

立崎:YOIYOのためのウイスキーは、よさそうなサンプルをいくつかロッテに出して、芦谷さんに検証してもらいました。

芦谷:シングルカスクがいくつかあり、ピートもあれば、ノンピートも。全部で5種類ほど。うちのチョコレートとマッチングするのは、どれかなあと。そして、今回はやっぱり厚岸と組むのだから、ピーティなものにしたかった。個人的な好みもあるが、厚岸蒸溜所のファンの方にも、納得していただけるものをつくらないといけないので。最終的には、ピートの複雑な香りとチョコレートのまったり感が際立つマリアージュのものに。

立崎:選んでもらった「芒種」は、厚岸として今までリリースした商品の中でもかなりピーティなお酒。4年熟成で、やっとこういう味が出せるようになってきた。メインは、バーボン樽で、ワイン樽とシェリー樽も使って、ガツンと強いだけじゃなく、日本人がつくるピーテッドってこんな感じだと思ってもらえる、繊細でやさしい味に仕上げました。サンセットビーチをイメージしていて、ソルティでピーティでフルーティ。誰か塩を入れたんじゃないかと思うくらい塩味を感じるけれど、成分解析しても塩が入っているわけじゃない。ピートの煙と関係があるんだと思う。

芦谷:このちょっとした何か、スモーキーさや塩味が、甘いチョコと合うんだと思う。うちのチョコは、粒子の細かさには自信があって、とびきりなめらかです。だから口どけがよく、じっくり味わえる。

立崎:だから食べ過ぎちゃうんですね(笑)。

―実は、共通項だらけの
ウイスキーとチョコレート

立崎:もともと甘いものが好きで、チョコレートは、ウイスキーと同じ要素があるなと感じます。カカオビターって、テイスティングノートに書くし。

芦谷:ポリフェノールもそうだし、どちらも加工の過程で発酵がある。考えれば、考えるほど共通項は多いですよね。

立崎:だから、チョコレートとウイスキーは合わないわけがないんですよ。ただ、単純に合わせただけじゃダメで、マリアージュはお互いに引き立て合ってないと。

―ここで、
最終品のテイスティング

立崎:ん、やっぱり口どけがいいですね。そして最初、甘いなと思ったら、どんどんビターになっていく。なんで、ですか?

芦谷:チョコレートに負けない、お酒の香り、個性の強さのおかげですね。

立崎:味の変化の仕方は、ウイスキーに似てますね。ウイスキー単体でも、最初甘い香りで、最後ビターになっていくんです。

芦谷:実はチョコレートも口どけで、だんだん出てくる味が違う。最初は、ミルクチョコレートのミルキーなキャラメリックな感じが出てくけど、噛むほどカカオのビター感が立ってくる。このYOIYOで味の変化を感じるのは、ウイスキーのビターさに加えて、チョコレート自体の微妙な味わいのせいもあるかもしれません。

立崎:面白い。ほんと、味変するチョコレート。

芦谷:実はビターチョコでも試したが、最初からケンカするような、苦味が立ち過ぎてしまって、ピーティでフルーティなお酒のよさが出せなかった。ミルクチョコレートの甘さが必要でした。

―「おいしい」が、やりがい

立崎:製造は地味な仕事ですが、うれしいのは、お客さんが、あ、おいしいって言ってくること。それだけですね。食品に携わる人は、みんなそうじゃないですかね。

芦谷:そうだと思います。食べて、笑顔になってくれるとき。だから、こんないいウイスキーにうちのチョコレートを合わさせていただいて、すごいマリアージュができることがうれしい。

立崎:モノの価値って、値段じゃないんですよね。伝わってしまう。ちゃんとやっているかどうかが。手を抜いていたら全然おいしくない。

芦谷:1つすごく、共通点を感じるつくり方があって、厚岸蒸溜所の麦のミーリングの話。クリアな麦汁を取るために潰す比率にこだわっているという。カカオも細かく潰すほどなめらかになるが、ものすごく手間がかかる。生産効率は悪くなる。でも、やるんです。

立崎:ただチョコレートをつくるならそこまでやる必要はないのかもしれない。でも、そこをきちんとこだわってやっているから、あの味になるんですね。

―YOIYOをどんな人に
どう楽しんでほしいか

芦谷:仕事に疲れた大人の方々に夜食べてもらって、ちょっといい気分になってほしいですね。ご褒美にぴったりなので。閉鎖感がある今、一瞬でも開放感を感じてほしい。厚岸にも簡単には行けない時代だからこそ、厚岸のストーリーを想像しながら。

立崎:バーテンダーの方にも、おすすめしたいですね。芒種に限らず、いろんなお酒とマッチングさせる合わせ技でおいしさを広げてもらえたら。バーや家飲みでゆっくり、3粒・4粒をじっくりと。甘いものをふだん食べない大人の方にも、ぜひ手にとっていただきたいですね。

―芦谷所長にとって、
チョコレートづくりとは

芦谷:夢ですね。ちょっと大げさかもしれないですが。今後の願いは、日本人にもっとチョコレートを食べてもらうこと。ドイツだと1年間に10キロくらい食べるが、日本人は2キロくらい。まだ一部に、子どものもの、おやつという感覚がある。年代によって味の感じ方も変わるので、チョコレートのおいしさをいろんな世代に改めて感じてほしいと思います。

―立崎チーフブレンダーにとって、
ウイスキーづくりとは

立崎:僕は、アーティストではなく技術者として、いつ飲んでもおいしいもの、飲み手としていつでも誰かに薦められるものをつくりたいと思っています。風味は一回一回が違っていていいし、逆にそれが個性になるアーティスティックなウイスキーも世にはありますが、僕らがつくりたいのはお客さんがいつでも信頼できるもの。厚岸を飲みたいと思ってくれた人を、絶対がっかりさせたくないですね。それは、ウイスキーであっても、チョコレートであっても、他の業界であっても、真摯にものづくりしているところは、同じ想いじゃないかな。