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カリンに魅了され
店名を変えた果物店
「かりんの松岸」

かりんの松岸 岸 勝久さん

店名に“かりん”の名を冠した果物店があると聞きつけ、編集部が向かったのは巣鴨。
1927年に創業し、巣鴨の商店街に店舗を構える果物店『かりんの松岸』。珍しい果物を取り扱うこのお店には、取材時にも柿やみかんといった季節の果物に加えてあけびや朝鮮人参などあまりスーパーでは見かけないものも並び、通りがかる街の人々が足を止めては、顔なじみの店員さんとあいさつを交わしていました。
そんな『かりんの松岸』の店頭には、ひときわ黄金色に輝くカリンがずらり。店名にふさわしくカリンが目を引く店頭は、巣鴨の商店街の秋冬の風物詩とも言えそうです。
こんなにもたくさんの生のカリンが店頭に並ぶ様子を初めて見た編集チームは期待に胸を膨らませながらも店主との初対面にドキドキ。

店内で手際よく作業する店主と思しき男性は、やや強面・・・。ちょっと緊張しながらお店の前でカリンを眺めていたら、
「ちょっと明日の準備でバタバタしちゃっててごめんなさいね~!もう少ししたら落ち着くので、ちょっと待っててください~」
と想像とは全然違ったテンションで軽快かつ優しいお声がけとともに『かりんの松岸』3代目店主 岸勝久さん登場。
約60年前からカリンを取り扱ってきた果物店3代目のお話は、カリンへの愛が溢れ出ていました。

昔は「フルーツ松岸」という店名だったんです

――カリンはスーパーではほとんど見かけたことがなく、果物店でもあまりなじみがないのですが、そもそもなぜカリンを取り扱うようになったんですか?

ちょうど今から約60年前、山梨の農家から市場に少量の甲州カリンが出荷されていたのですが、食用に不向きだったカリンは誰にも見向きもされず、担当だった競り人もどう販売すればいいのか悩んでいた矢先、昔から珍しい果実等を取り扱っていた先代にお声がかかりまして。先代もどのように売ればよいのか考えたときに、世間では酒税法改正(1962年以降)により家庭でも果実酒づくりが認められ、それ以降一気に梅酒ブームが起きました。それにあやかって梅同様にカリンも焼酎漬け用として1キロ単位で販売したらどうだろうか?と試した結果、大ヒット。その後は徐々に山梨だけじゃなく全国的にカリンを作る農家が増え、市場でもカリンを欲しがる仲卸も増えました。

――お父様である先代の好奇心と商売人としてのセンスがきらりと光り、60年もの間カリンを取り扱い続け、今に至るわけですね。
取材前からずっと気になっていたんですが、『かりんの松岸』という店名の由来を教えてください!

もともとの屋号は『フルーツ松岸』だったんですが、いつの間にかお客様の間でカリンをたくさん扱っている巣鴨の果物屋さんと言われるようになり、次第に口コミで『かりんの松岸さん』と呼ばれることが多くなりました。そこで先代が、お客様に伝わりやすく覚えやすいのではないか?と考え、『かりんの松岸』へ変更したんですよね。

この時期になると「カリンはいつ頃入るの~?」と聞いてくださるお客様もいらっしゃいますし、ありがたいことに何十年も毎年カリンを買いに来てくださる常連さんもいますね。

取材している間にも、カリンの前で足を止める街の方々が続々。

カリンは家族の日常にいつもありました

――カリンをこれだけ取り扱っている岸さんのご家族が、どのようにカリンを暮らしに取り入れていらっしゃるのか気になります!

父親はほぼ毎日カリン茶を飲んでますね。母親はカリン酒派で、カリンのはちみつ漬けも作っていました。僕が小さいころは乾燥した季節になると、寝る前におちょこに少しだけ入れてそれらを愛飲していました。そうすると乾燥が気にならず、ぐっすり眠れたという記憶がありますね。うちの場合は、5年とか10年漬け込んでるカリン酒があったので、いつも家にはカリンが常備されていましたね。今思い返しても、カリンを日々愛飲していた家庭だからか、季節問わずいつも家族みんなが元気ですね~。

――やはり小さいときからカリンが身近にあり、当たり前に暮らしの中に溶け込んでいたんですね。今も現役で店頭にいらっしゃる先代のお父様もお母様も、通りがかる地域の方々に明るく声をかけ会話を楽しむ姿が印象的で、街の皆さんも『かりんの松岸』でパワーチャージしているようにも見えますね。

昔から当たり前のようにカリンを取り入れていてみんな元気な一家だったので、店頭でも自信をもっておすすめできるんですよね。買ってくださったお客さんたちからも「すごくよかったよ」とか「乾燥する季節に重宝している」という声などもいただくので、うれしいですね。自分たちだけが「いいですよ~」って言うんじゃなくて、そういうお客さんの声って大きいですからね。

カリンの実は表面がきれいで肉厚なのがいいんです

――お店で販売しているカリンには「焼酎漬け用」と「特上品」と書かれているのですが、何が違うのですか?

当店ではカリンを謳っていることもあるので、はっきりと特上品とそれ以外を分けて仕入れています。カリンは虫がつきやすい品種なんですが、特上品は虫食いや傷などが全くないものです。これははちみつ漬けにおすすめですね。はちみつ漬けはある程度薄くスライスしないとエキスが出づらいので、きれいなカリンをそのまま使用していただいています。焼酎漬けは、ざく切りでいいので加工も楽なんですよね。傷んでいたりする部分があれば、ざく切りしながら取り除いていただいて。

――はちみつ漬けとカリン酒を漬けるのとでは、カリンの切り方も違うんですね。ちなみに“いいカリン”の選び方のコツはありますか?

ごつごつとしていない、なるべく外傷が少ないきれいな見た目のカリンを選んだ方がいいですね。その中でも果皮が緑色から黄色になっていて、ほのかに芳醇な香りを漂わせて表面に油分が出始めた実がおすすめです。その方がはちみつや焼酎に漬け込んだときにエキスが出やすいんですよね。緑色のものを買っていただいても2-3週間くらいすると黄色く色づいてくるので黄色くなってから使っていただければ問題ないです。

香りがすごくいいので、芳香剤として玄関やトイレなどに置かれている方もいます。僕もたまに車の中に置いてます。サイズは大きいものの方がいいです。果肉部分が肉厚になるので、そこからエキスが出てくるんですよ。

この日店頭に並んでいたものは400g越え。ずっしりとした重みのある実ですが、11月に入ると1個で1kgを超えるサイズのものも出てくるとのこと。

――編集部ではちみつ漬けをつくるべく、特上品の中からよりよいカリンを岸さんに選んでいただきました。そのカリンを選び取るまなざしからもカリンへの愛を感じざるを得ません。

カリンって本来もっと見た目ごつごつしているものが多いんですが、うちが仕入れさせていただいている山梨の生産者さんは本当に丁寧に育てられていて、きれいなものを作ってくださるのでこのような美しい見た目なんです。だから、たまに海外の方が勘違いして「マンゴー?パパイヤ?」なんて聞かれたりもしますよ(笑)。うちで販売しているカリン酒を造ってもらっている会社さんにも「こんないいカリンは見たことない」って言われましたね。ただ、生産者さんももう70代後半で後継者がいないのですが、これがなくなってしまったらどうしようかな~と思ってます。どうにか繋げていってほしいんですよね。

――ドライカリンというのも気になります!漢方っぽい雰囲気もありますが、これはどうやって使うんですか?

お酒が飲めない方や糖分をとりたくない方はドライカリンを煎じてカリン茶として飲まれています。ダージリンティーみたいな味わいで飲みやすいですよ。甘味が大丈夫な方であれば、カリン茶にカリンシロップやはちみつ漬けを入れて飲むのもいいですね。

――これはどのくらいの分量で煮出すんでしょうか?

1.5Lのお湯に対して50gのドライカリンを入れて煮出すんですが、最低でも2-3時間は煮出した方がいいです。そのくらい時間かけないとエキスが出てこないので。うちなんかは6時間は煮出してますね。

――そんなに煮出すんですね!ダージリンティーのような味わいであれば日常的にも取り入れやすいなと思い、編集部へのお土産にこちらもいただきました。私たちのカリンライフがはじまります。

ホントに魅力的な果物なので、もっと知ってほしいんですよね

――岸さんのお話を伺っていたら、どんどんカリンへの興味が湧いてきて、日々の暮らしに取り入れたいと思うと同時に、なんだかカリンが愛おしく思えてきました!改めて、カリンの魅力を教えてください。

昔からカリンは漢方とかでも使われて咳や痰を抑える薬としても知られていて、ビタミンやカリウムなども多く含まれています。また、カリンは保湿効果なども言われていて、化粧水などの美容関連商品にも使われてもいるんですよ。要するにカリンは、この実一つでいろいろな良さが詰まっているオールインワンの果物なんです。ホントに魅力的な果物なので、もっと若い方含めてみんなに知ってもらいたいんですよ。だからうちも5年ほど前にカリンアイスを作ってみておいしいのができたので、絶対売れると思ったんですけどね~、宣伝が下手だったのかちょっと失敗しちゃいました(笑)。もう一回チャレンジしたいな~と思っているんですけどね。

ほかにも去年から夏に店頭で“カリンはちみつソーダ”や“カリンティー”をテイクアウトで買っていただけるように販売し始めました。少しでも若い方に知ってもらいたいな~と思って。結果、年配の方にも喜ばれましたね。
カリンというのは、のどを潤してくれのは勿論ですが、自分の体感上、直接触れている時間が長い方がいいんですよね。とりあえず飲めばいいと思われている方もいらっしゃいますが、そうじゃなくてのどに留めて飲むようなイメージ。だからはちみつなどでとろみをつけるのもおすすめです。カリンアイスもホントいいのができたな~と思ったんですけどね~(笑)。カリン茶の場合はできればホット、なんなら体温に近い、ぬるま湯くらいの温度がちょうどよくておすすめですね。

――生のカリンは、どういった方が買われるんですか?

生のカリンは毎年購入してくださる常連さんなどに加えて、居酒屋さんなども仕入れにこられたりしますね。カリンをウォッカで漬けて、カリンサワーで出しているみたいです。おしゃれですよね。
あとは、以前クラフトコーラを作っている方がドライカリンを買っていってくださったこともありますね。まだまだいろんな可能性があると思うんですよね。ぜひいろんな方にもっとカリンのことを知っていただきたいですね。

【編集後記】
終始、陳列されたカリンの前でカリンを手に持ちながらその魅力や楽しみ方をお話してくださった『かりんの松岸』3代目店主 岸勝久さん。
インタビューの中で何度も「もっとたくさんの方に知ってほしいんですよね~」「こんなに魅力的な果物なんでね~」ということを仰っていたのが印象的でした。60年間も販売をし続け、今もなおもっともっと広めるべく試行錯誤しながら商品開発をされている岸さんからは、カリンへの愛が溢れ出ていました。
1時間たっぷりとお話を聞き終わったころには、すっかりカリンの魅力に引き込まれ、焼酎漬け用とはちみつ漬け用の特上品、そしてドライカリンも購入していた編集チーム。この冬からカリンライフをスタートしようと思います。

取材日:2023/10/27

プロフィール

岸勝久さん
1927年創業の果物店『かりんの松岸』3代目 店主。カリンの魅力をより多くの方に伝えるべく、時には産地に足を運び、カリンにまつわる商品開発をしたり、販売方法を工夫しながら今もカリンの魅力伝道師として日々店頭に立つ。