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いい香り、いい気分。
120年目を迎える
「堀内果実園」に聞く
カリンの魅力

堀内果実園 堀内俊孝さん

日本にはいくつかフルーツの産地がある。青森のりんご、山梨のぶどう、和歌山のみかん……思いつくだけでも片手では足りません。今回訪れた奈良県もフルーツの産地として知られる有名な県の1つで、いちごの「古都華」をはじめ、柿がちょうど実りの季節を迎える頃でした。

西吉野町へ向かう車窓からは山辺に果樹園が広がっていて、紅葉よりも一足早く木にはたわわな実が色づいていました。爽やかな秋晴れにも恵まれ、期待を膨らませつつ、山道をぐんぐん登って、やってきたのは120年続く「堀内果実園」さんです。
代表の堀内俊孝さんは「今日は絶好の取材日和だし、畑も見てってください、ちょうどカリンの収穫中ですから」と迎えてくれました。

いい香りで、いい気分

ーー畑に踏み入れると、ふわっと甘く柔らかい、カリンの香りに包まれます。このあたりは柿の畑が多く見えましたが、なぜカリンを作りはじめたのでしょうか。

カリンは昔から吉野にあってね。父親が「香りがいいものを出荷するのも気分がいいから」って、カリンばっかり植えていったみたいで。秋になってカリンの収穫時期が近づいてくるとと、いい匂いがするんですよ。こうやって小ぶりのカリンの実を車のドリンクホルダーに乗せておくだけで車内がほんと良い香りに満たされます。この時季はええですよ。

父は農業高校の先生をしていたせいなのか、人と違ったおもしろいことをやってましたね。
ここはみんなで山を購入して、農地として開墾して作った果樹園ですから、周りからは「1軒だけ変なの植えてるヤツおるなぁ」なんて目で見られてたと思います。

ーー堀内果実園さんは120年の歴史があると伺っています。カリンはいつ頃から育てられているのでしょうか。

100年超えた木もありますが、2年に1回だけ実るようになる木が増えてきますね。当時は柿があんまり採れなかったみたいでね。ちゃんと畑に植えたのは、確か30年前くらいですかね。今が働き盛りの木ですよ。

ーーそれにしても、大きな実がたくさんなっていますね。収穫かごにまだ半分も入ってないのに、ずっしり重い!

この収穫かごはまだ中サイズですよ!これ2つ腰につけて、みんなでひとつひとつ手摘みで収穫します。手でぷちん、と取れるのはちょうど良い頃合い、取りにくいものはまだ熟してないんですね。黄色くなってしばらくすると、勝手に落ちて転がっていきます。

ーーまるく、ずっしりとしたカリンの実。すべすべしていて、カリンの表面からほんのりとオイルのツヤが照り非常にいい香りが漂います、それが香りの元なのでは、とカリントークは尽きません。非常に華やかで美味しそうな香りを漂わせている一方で、このままシャクッとかじりつけないのが、またカリンへの興味をそそります。続いて、いいカリンを育てるコツから、この場所でカリン農家をすることの魅力について伺いました。

土地に育んでもらうこと

ーーカリン100%マガジンの取材で、香川のカリン農家さんのお話を聞きましたが、やはりカリンを育てるのは簡単ではないと聞いています。いいカリンを育てるコツはありますか。

何も隠してることなんて無いから、いつでも教えますよ。まずは苗ですね。このあたりの農業は分業なので、近くの苗屋さんにはよく相談しています。和歌山県は言わずとしれた果物の産地ですが、桃山町にいい苗屋さんがあるんですよ。こうした存在が近くにあるのは産業として大事ですね。カリン以外の果物も、得意な産地には詳しいところがありますから、相談しに行ったりね。

いいカリンの木の枝を苗屋さんに持って行って、接ぎ木していい苗を作ってもらいます。これは果樹の基本。植えてから収穫できるまで4〜5年かかるので、自分の目でちゃんと見て、苗の具合を確かめるのも大事ですね。たまーにあるんですよ、苗がそっくりで、何年かしたら別物の木が生えてきた!って。思ってたんと違う花が咲いたなぁ、なんて(笑)。

ーー「餅は餅屋に」とはいえ、カリンは農家さんにとってもまだまだ珍しい果物ですよね。いい苗の見極め方はありますか。

枝の先から幹の方までまんべんなく実がなっているのはいいですね。収穫量が全然ちがうんですよ。そういう木を集めて植えていくと、畑全体でみたときの収穫量が大きく変わってきます。言うのは簡単ですが、思っていたより実らない木が固まってしまうこともあります。実らない気が2~3本続いていたら、すぐにその木は切ってしまって、実りのいい優れたDNAを持つ木を接ぎ木した苗に植え替えるんです。
こーれが大事なんですよ。次に土づくり、やっぱり土なんですよね。

ーー土ですか。確かに、地面がふかふかしていますね。何か秘密がありそうです!

吉野という土地柄、林業が盛んで、ありがたいことに木のチップや、籾殻なんかがもらえるんですよ。ちょうど帰り道にありますわ。それに菌や微生物を混ぜるんですよ。秋の収穫が終わると休眠期に入って、冬に根が動かなくなるから、その時季に必ずまいてあげて。植えたては特に絶対に冬場にやります、毎年ね。この肥料をもしホームセンターで全部買ってやってたら、コスト的にも大変なので、苗屋と同じで土壌づくりにおいても良い関係性があるのは恵まれていますね。

大変だったことといえば、この頃は夏が異常に暑いでしょ。昔は夏までに伸びた枝は、陰を作ってしまうので切っていたんですが、気温が高すぎると高温障害が怖いので、最近はあえて切らずに陰を作るようにしています。同じ果物でも、気候によって作り方を変えて対応していかないといけない。うちは色々な果物作っていますが、片手間にできることではありません。

ーー試行錯誤を繰り返しながらカリンづくりに取り組む堀内さんの言葉には、カリンづくりへの愛情がたっぷりと感じられます。大変なこと、とお話ししつつ大事そうにカリンを見つめる姿が印象的でした。インタビューもそろそろ終盤です。最後に堀内さんとカリンの歩みを伺いました。

もっと、カリンのある暮らし

ーー小さな頃から自宅にはカリン酒やシロップ漬けがあったと語る堀内さん。実は子どもの頃はぜんそく気味だったこともあって、乾燥する季節は特に困っていたのだそう。

今はもう全然、乾燥する季節でも悩みがないですね。当時からカリン酒やシロップ漬けを飲んでいました。そのおかげか分かりませんが、うちの家族はみんないつも元気でしたね。それこそ、小学校のマラソン大会の時期なんかは特に空気が乾燥してるでしょ。だから事前にカリンシロップを飲んでおいてね、そしたらちゃんと走りきれてね、よく覚えてますわ。冬はもちろんですが、春の黄砂の頃のような空気の乾燥が目立つ時期もね、飲んでおくとだいぶ楽になるなぁと思います。

ーー乾燥対策も、マラソンも、備えあれば憂いなしですね。今はどんな風に楽しんでいますか?

カリン酒を漬けるときにはちみつをちょっと入れるとマイルドになる気がしますね。そういえば、コロナ禍に入ったころなんかは、通販サイトで柿よりもカリンが売れている時期があってね。自宅で手作りキットを用意していたんですよ。近頃は無印良品でカリンのシロップづくりのワークショップを開催してもらったり、定員いっぱいまで集まってくださるようで、ちょっと驚きつつも、嬉しい限りですね。

ーー生のカリンにふれる貴重な体験ですね。堀内果実園さんのカリンは通常どのような加工、またどのような方に販売されているのでしょうか。

2〜3割はシロップに加工していて、その他は青果出荷されます。カリンシロップなどの加工品にすることで年中カリンを楽しんでもらうことができ、ありがたいことに季節問わずによく売れていますね。通販サイトの他にも、奈良や大阪、渋谷などに直営店を運営しています。あとは、歌手やアスリートの方が買われているのだと思います。機能効果の報告などもある果物は珍しいですし、やっぱり香りもいいですから。

ーーこれからどんな風にカリンの楽しみ方を広めていきたいですか?

お店のメニューなどに使っていきたいと思っています。夏はかき氷のシロップとかもいいですね。興味があるのはスキンケアやコスメへの活用でしょうか。香りを残すのは難しいと言われていますが、まだまだ新しい可能性を秘めていると思うんですよ。堀内果実園では去年も新しいカリンの苗を植えていて、畑は増やしているところです。

ーーカリンのこれから、話しだしたら時間が足りませんね...!今日はカリントークをたっぷり聞かせてくださり、ありがとうございました。

【編集後記】
収穫の時期、甘いカリンの香りに包まれながらお話してくださった『堀内果実園』代表の堀内 俊孝さん。

農業は分業で、というお話から始まった堀内さんへのインタビュー。農業という枠組みにとらわれず、林業をはじめ、奈良県ならではの恩恵を活かした育て方は、発見の連続でした。冷え込む冬場に土づくりをおこない、炎天下の夏には様子を見ながら陰つくって木の体調管理も行う。秋には人の手でひとつずつ摘み取られ、愛情をたっぷりと受けて育ったカリンはどこか誇らしそうに見えました。

取材日:2023/10/31

プロフィール

堀内俊孝さん
『株式会社 堀内果実園』代表。奈良県五條市西吉野町にある1903 (明治36)年に開墾した果実園。120年の伝統を生かしながら、柿やカリンなど季節を通して丁寧な果物づくりに取り組む。農家が提案する「くだものをたのしむお店」として直営店も手掛ける。