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FileNo.005 染谷カツオさん
染谷カツオさん

性的マイノリティの総称であるLGBTQ。Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシュアル)、Transgender(トランスジェンダー、性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)、QueerやQuestioning(クイアやクエスチョニング、性自認や性的指向が定まっていないか、意図的に定めていないセクシュアリティ)を指しますが、今回は、自身の性自認は男性というトランスジェンダーの染谷カツオさんに、当事者が悩むことや、そのなかで何を考えてきたのか、周囲はどう接すればいいのかなどをうかがいました。

性別のことで経験した「孤独感」「疎外感」

—— 自分の性別に疑問を持ち始めたのはどんなきっかけでしたか?

染谷カツオさん 中学生のときに同性である女の子を好きになって、その子のことばかり考え始めたんです。これって恋愛感情なのか、お友だちとして好きなだけなのかがわからなくて。でもずっと一緒にいたいと思うようになって、これは恋愛感情だなって。

ただ、当時は自分の性別について考えることはなかったですね。女の子への恋愛感情という初めての体験を受け止めることでいっぱいいっぱいだったから。

高校生になってからは、自分の性別のことでめちゃくちゃ悩みましたね。自分の体に対する嫌悪感。あとは社会にある「男女」という枠組みに自分は当てはまらないという「孤独感」や「疎外感」がありました。つまり、自分では男だと思っているのに受け入れてもらえない――その気持ちをどこにぶつけていいのかわからなかった。

でもいま思い返すと、当時は「男女二元論」という世間の価値観にどっぷりつかっていたんですよね。そこから抜け出せていなかった。それに気づかせてくれたのは専門学校時代にバイトしていた居酒屋の店長でした。

その店は、〝男の長髪OK、ピアスOK、個性を爆発させろ!〟という考え方の店。面接のとき、「染谷 梢」という本名で履歴書を出していて、声は高いんだけど髪は短いし、男の子っぽいものを身につけていたからか、店長は、「恋人いるんですか?」という聞き方をしてくれたんですね。「彼氏」「彼女」という言い方ではなかったので、ここなら心理的な安全性が保たれるというか、安心感があると思いました。言葉には組織の土壌が反映されるので。

でもお客さんはそんな僕のことは知らないですよね。外見や声で僕のことを女性だと思って、平気で「おねえさん、注文お願いします」とか話しかけてきます。内心「おねえさんじゃねーよ!」と思いながらイライラしていたんです。そんな僕を見て店長はこう言うんです。「男性に近づける方法はないの?」と。それをきっかけにホルモン療法を始めたんです。声なんか太くなってカラオケで歌っても、サビの高音部が出なくなっちゃいました(笑)。

その店長、僕が抱えているセクシュアリティの問題を「それは、他者と違う個性が発揮できる自分のおもしろポイントなんだから、自らネタにしてあっけらかんとしといたほうがいいぞ」って。当時はすごく反発しましたが、年を重ねて、そのときの店長の言葉は、「人と違うことは武器になる」という意味で、「自分らしく生活したり、生きるとはどういうことかを具体的に考えろ」というメッセージだったと思うようになりました。店長は本当に大切なことを気づかせてくれたんですね。あのとき気づかなければずっと自分自身も凝り固まった価値観から抜け出せていなかったと思うから。

〝自分にしかできないもの、自分に貢献できること〟は何か

—— その気づきから、どんなことをしようと思いましたか?

染谷さん 〝自分にしかできないものや貢献できることは何か〟を考えました。至らない部分もいっぱいあるけれど、自分ができることで人を助けられることだってあるわけで。

講演活動や啓発活動をお主に行なっている株式会社ニューキャンバスに所属しているのも、そのひとつかもしれません。東京レインボープライド共同代表理事も務める杉山文野のマネージャーとして、共にLGBTQの方や様々な方が、 フラットに集まれる場所づくりを行っています。 少しずつ、一人ずつ、共感の輪を広げ、 それぞれの個性や特性の違いを力に変えながら、その違いがあたりまえの未来をつくる活動をしています。飲食店の店長としても働かせていただいていますが、垣根なく集まり人が繋がったり、輪が広がるきっかけになったりというのも、とてもやりがいがあります。

相手を傷つけてしまうかもしれないという想像力が大切

—— 性的マイノリティの人たちとは、どういう関わり方をしたらいいと思いますか?

染谷さん ときどき「染谷さんはLGBTQの当事者ですよね」と話しかけられることがあるんですが、LGBTQは性的マイノリティの総称ですからね。僕はトランスジェンダーに該当しますが、そういう捉え方ではなく、1人の人として接してほしいんです。

LGBTQは「特性」という言葉が近いと思うんですね。なりたくてなったわけでもなく、選んでいる訳でもありません。背が高いほうがよくて低いのは駄目とか、足が遅いのは駄目で速いのはいいとか、そういう良し悪しやマジョリティかマイノリティかで人を比べるのはやめたいですよね。全ての人がそうではないかもしれないけど、腫れ物に触るように距離を置かれるのは寂しいと思います。どう接して良いか最初は難しいかもしれませんが、コミュニケーションを取ってお互い歩み寄っていきたい。自分の経験にないことは理解が難しいのは当たり前です。わからないことは悪いことではないので、それを前提としてコミュニケーションができたらいいと思うんですよね。

「私は知らないから、失礼なことをいうかも知れませんけど、教えてください」とか「もしかしたらあなたを傷つけることを言うかもしないけど、そのときはごめんなさいね」といった前置きをして、コミュニケーションを取り始めるというのはすごく大切だと思います。自分が知らないことで相手を傷つけてしまうかもしれないという想像力ですよね。そうした想像力をもちながら互いに理解を深め、近づけたらと思います。

—— お店では、相談を持ちかけられることはありますか?

染谷さん ありますよ。一般企業の方が「部下からカミングアウトを受けたんだけどどうしたらいい?」とか。そういう場合、直属の上司だけに知っておいてもらえたら良いという人から、部署全体の人に知ってほしいという人まで、さまざまありますから、そのあたりをしっかり聞き取って対応したらいいとはお伝えしますね。情報管理の仕方を間違えて、アウティング(※本人の了承なく他の人に伝えること)という当事者が望まない広まり方をすると、その人が会社にいづらくなってしまう。それでは元も子もないので絶対に避けたい。

カミングアウトすることが必ずしもいいわけではないですが、社員規則に「差別禁止」を明記するとか。共通認識を持つことでカミングアウトしやすい環境をつくれます。

僕としては、いろんな特性を持った人たちがコミュニケーションできる場づくりを、これからも続けていきたいですね。そのためにもお店を長く続けていきたいなって思います。

05 ジェンダー平等を実現しよう
染谷カツオさん
1988年、埼玉県生まれ。トランス男性であり、バイセクシュアル。小学校から高校まで共学の学校で学生生活を送る。専門学校卒業後、コンサート関係の仕事に携わるも職場環境に馴染めずに退職。その後専門学生時代にバイトしていた飲食企業に就職。現在は株式会社ニューキャンバスに所属し、飲食店店長を務める傍ら、講演活動や様々な啓発イベントの運営に携わっている。カツオは学生時代からのニックネームだが、覚えてもらいやすいため名刺などもカツオを使用している。

取材・文 西所正道

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