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ボクは先天性の強度なおっちょこちょいだ。逆方向の電車に乗ったり、Tシャツを裏返しに着ていくなんて日常茶飯事。人のサンダルを履いて帰ったり、髭剃りのジェルで歯を磨いたり。タクシーでお金を払って降りるとき「ごちそうさま」って言ったり、告別式のことを結婚式と言い間違えたり。

小学校4年の時、ランドセルを家に忘れて、手ぶらで学校に行き、1時間目の授業が始まるまで気付かなかった。「ない、ない」と机周りやロッカーを見てたら、一緒に登校したSくんが「あ、そういえば、何にも背負ってなかった」と言ったので、教室は爆笑。でも先生はカンカンになって、事務室から家に電話させられ、母に授業中の教室に持ってきてもらった。

母は相当恥ずかしかったんだろう。帰ると正座させられ、涙ながらに説教された。でも、忘れ物癖は治らなかった。

中学校の時は、ブルース・リーを、ずっと「ブルー・スリー」だと思ってて笑われた。

高校の時、ユーミンのコンサートのペアチケットが当たったので、同じクラスの女子を誘った。

初めてのデートのようなもので、少しドキドキしながら、中野駅で待ち合わせて行った。会場の中野サンプラザが近づいてきた頃、彼女が「ちょっとチケット見せて」というので見せたら「これ、明日だけど」。1日間違えていた。まわりを見たらおばあちゃんばかり。その日は民謡大会だった。気づけよ俺。

焦って必死であやまったら彼女は「明日また来よ」って笑う。「2日続けて会えて、よかったじゃない」って言われて、ちょっとぐらっときた。そういう言い方があるのか、と。これは失敗が功を奏した例。

笑われてスッキリ!

最近の失敗。仕事場が散らかってイライラしてきて、海外旅行前に「断捨離だ!」ってゴミを捨てまくってた。そしたら「捨てハイ」になっちゃって、ゴミだけでなく仕事で描いたイラストとか、お土産とか、飾り物とか、昔の手帳とか、どんどん捨ててしまった。

気分スッキリして旅行に出かけようとしたら、パスポートがない。捨てちゃった、古いパスポートと一緒に。再発行に時間がかかるので、ボクは旅行に行けなくなった。一緒に行く予定だった家族に怒られ呆れられた。

でも、失敗した話は、成功した話より、絶対ウケる。失敗したら、隠さず人に話して笑われると、スッキリする。これを失敗の「成仏」と呼んでいる。

マンガ家であるボクは、失敗の成仏が仕事ともいえる。

久住昌之(くすみ・まさゆき)
1958年、東京都生まれ。法政大学社会学部卒。美學校で赤瀬川原平に師事。81年に和泉晴紀さんと組み、「泉昌之」名でマンガ家デビュー。単行本『かっこいいスキヤキ』がロングセラーとなる。マンガのほかに、イラスト、デザイン、切り絵の仕事を中心に活動。94年谷口ジローさんと組んで発表したマンガ『孤独のグルメ』がヒットし、イタリア、フランス、韓国など10カ国で翻訳されている。またデビュー当時からバンド演奏や作詞作曲など音楽活動にも注力し、TVドラマ「孤独のグルメ」の劇中音楽の制作にも携わる。最新刊は『線路つまみ食い散歩』(カンゼン)。

季刊広報誌「Shall we Lotte」第41号(2018年秋)より転載
「失敗は成功の素」をテーマに、ご自身の経験から、明るい失敗やほろ苦い失敗をどう成功へ導いたかを、読む人がちょっと元気をもらえるようなエッセイにしていただきました。

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