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板チョコレートをパキッと割って、ひとかけ口に入れると、とろりと溶けて芳醇(ほうじゅん)な風味が広がります。チョコのおいしさを決める魅惑的な香りとくちどけの秘密は、カカオの成分にあります。第3回は、カカオをちょっぴりサイエンス寄りの視点で見ていきましょう。

カカオがチョコレートになるのはいつ?

カカオは、いつから「チョコレートらしさ」を感じさせる味と香りを持つのでしょうか。花に香りはほとんどなく、果実はライチのよう。生の豆をかじろうものなら、渋柿を超える悶絶級の渋みと苦みで、チョコレートとは程遠いものだとか。少なくとも畑で栽培されている時点では、「チョコらしさ」はまったくないようです。

生のカカオ豆はとても渋く、苦みが強い。

そもそも、私たちがイメージするチョコレートの香りは、カカオに砂糖やミルクの甘みが加わったもの。カカオ自体に甘みはなく、香ばしくビターな香りが特徴です。その香りの「もと」となる成分は、カカオ豆を発酵させることで作られます。カカオ豆が初めて「チョコっぽい」香りを発するのは、砕いてロースト(焙炒=ばいしょう)した時。発酵によって作られた香りのもとが、熱を加えることで香気成分に変化するのです。

ローストすることでカカオ特有の香ばしい香りが出る。

カカオの代表的な香気成分には、香ばしいナッツのような香りで、コーヒーやほうじ茶、肉を焼いた時の香りにも含まれるピラジン類や、バナナやオレンジなどフルーツの香りのもとになるエステル類などがあり、すべて合わせると数百もの香気成分が関係していると考えられています。こうした香気成分に加え、カカオポリフェノールやテオブロミンなどカカオ特有の成分が持つ渋みや苦み、砂糖の甘みなどがカカオの油分と混然一体となることで、甘く香ばしい魅惑的なチョコレートの香りが生まれるのです。

ちなみに、最近、スーパーフードとして注目を集めている「カカオニブ」は、カカオ豆を砕いて皮を除いた胚乳(はいにゅう)部分をローストしたもの。甘みはなく、カカオ本来の味と香りが楽しめます。

カカオ本来の苦みが味わえるカカオニブ。

室温でパキッ、口の中でとろり、の謎

チョコレートのおいしさを決める、もう一つの重要なファクターが「くちどけ」です。ここにも、カカオの性質が関係しています。

長い間飲み物として楽しまれてきたカカオが、固形のチョコレートになったのは19世紀半ば。イギリスでココアを薬品として製造していたジョセフ・フライが、砂糖とカカオニブを混ぜてすりつぶしたものにココアバターを加えて溶かし、冷やし固めたことが始まりです。ココアバターとは、カカオニブをすりつぶして液状にしたカカオマスを圧搾した油脂のことで、薬学の知識があったフライは、ほかの油にはない、ココアバターの面白い性質を利用したのです。

カカオからとれる油脂、ココアバター。

それは、室温では硬く、口に入れると急速に溶けて液体になること。ココアバターは28度で溶け始め、人の体温に近い温度(30~35度)に達すると残らず溶けます。常温ではパキッと割れる硬さなのに、口の中でとろりと溶けるのはこのため。そして、唾液(だえき)と混じり合うことで、ココアバターで覆われていた砂糖やミルク(粉乳)、カカオマスの粒子が溶けだし、チョコレートの甘みやまろやかさを感じられるのです。

何が違う? カカオ豆とコーヒー豆

似て非なるカカオ豆(左)とコーヒー豆。

カカオ豆とコーヒー豆は、色や形、産地、ローストすると香ばしい香りを出すことなど共通点が多いのですが、成分には大きな違いがあります。カカオ豆は全成分のおよそ50%を油脂が占めるのに対し、コーヒー豆は10~20%ほど。油脂の種類も異なります。また、チョコレートにもカフェインが多く含まれているのでは?と思われがちですが、ミルクチョコレート25g(板チョコレート半分くらい)に含まれるカフェインの量は、レギュラーコーヒー1杯(150ml)の約10分の1程度です。

似ているようで性質の異なるカカオとコーヒーですが、相性は抜群。チョコレートをかじりながらコーヒーを口に含むと2つのアロマがとけ合い、気持ちもリラックス。至福のひとときへといざなってくれます。

の こだわり

カカオ豆探しは宝探し。 Bean to Barは実はロッテでも!

近年、チョコレート好きに話題の「Bean to Bar(ビーン・トゥ・バー)」。カカオ豆(Bean)の仕入れから板チョコレート(Bar)ができるまでの工程を、一貫して手掛けることを指します。原料メーカーからチョコレートを仕入れ、溶かし直して独自の味付けをする一般的な製法と比べ、手間も時間もかかりますが、その分、産地や品種にこだわり、豆の個性を生かしたチョコレートづくりができるのがメリット。ここ数年、Bean to Barを手掛けるショップが続々とオープンし、チョコレート業界の「サードウェーブ」ともいわれています。

ロッテでは厳しい品質検査に合格した良質なカカオ豆を輸入し、使用している。

ロッテでは、「ガーナ」発売当初から、豆の状態でカカオを仕入れ、粉砕、ローストしてカカオマスを作り、チョコレートの製造まで自社で一貫して行ってきました。Bean to Barのチョコレートをいち早く取り入れていたロッテですが、中央研究所チョコレート研究課の安村智史は「自分たちの目指すおいしさを追求するため、結果的に続けてきた方法の一つです。味のバランスをとるために、複数のカカオマスをブレンドすることもあります」と言います。「カカオは産地や品種、さらには土壌や発酵の仕方によっても、味や香りが大きく異なります。その中からどれを自分たちのベストな豆として選ぶのか、宝探しのようで面白い。実際、産地はアフリカや中南米など、日本から簡単には行けない場所にありますから、カカオ豆探しは、まさにアドベンチャーなんです」

(参考文献・ウェブサイト)
● ロッテウェブサイト 工場見学・学ぶ>チョコレートカフェ>チョコができるまで
● 日本チョコレート・カカオ協会
● 全日本コーヒー協会(コーヒーの成分について)
● 書籍「チョコレートの世界史 近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石」武田尚子著 中公新書
● 書籍「カカオとチョコレートのサイエンス・ロマン 神の食べ物の不思議」佐藤清隆・古谷野哲夫著 幸書房
● 佐藤清隆 講演資料
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