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ロッテのおいしさの秘密を探る「探検 お菓子の原材料」では、前半、後半の2回にわたって「パイの実」のふっくらサックサクとしたパイの秘密をお届けしています。今回は後半。チョコレートを注入してもなお、ふっくらしているパイの謎に迫ります。

パイ生地をこわさずにチョコレートを注入する秘訣

前半で説明したとおり、パイ生地は加熱されると、一層一層が剥がれるように浮き上がり、ふくらんでいきます。ふくらんだパイは、コアラのマーチのビスケットのように中が空洞ではありません。そのため、チョコを注入する際、入れ方次第ではサックサクに焼きあがったパイ生地をこわしてしまう可能性があります。そうなってしまうと、せっかくのサックサクの食感は台無しです。では、どうやってチョコを注入しているのでしょうか。

「パイの実」専用のチョコを使用

パイの実には、ガーナなどそれだけで販売されているものとは違う、パイの実専用のチョコレートを注入しています。チョコレートの一番の違いは、物性にあります。

「パイの実のチョコは食べていただくとわかりますが、やわらかく、歯がすっと入っていきます。口に入ったときに、パイとチョコのどちらかが残るのではなく、一体感のある口どけを味わっていただけるようにしているのです。

チョコの物性は、パイ生地に注入するときも非常に重要な要素。ねっとりとした粘性があると、チョコがパイの中を通るときに圧力がかかりパイが崩れてしまいます。注入のときの速度も考慮しながら物性を見極めています」(ロッテ中央研究所 チョコ・ビス研究部 ビスケット研究課 原拓也)

針(インジェクション)の機構設計や注入速度

チョコを注入するのは裏面から。焼いた生地をひっくり返し、針を用いて注入しています。注射器を太くしたような針は独自に開発しました。

「チョコの物性、針の構造、注入口の形状、注入の速度など、どれもが重要で、何度もトライアンドエラーを繰り返し、焼きたてのパイをこわすことなくチョコを注入する製法が完成しました」(原)

パイ生地とともにチョコもリニューアル

こうして誕生したパイの実は、他社の追随を許さない“オンリーワン”商品として、40年以上多くの人に愛されてきました。

前半でもお伝えしたように、40周年を機にパイ生地はより香ばしくなりました。パイオイルを配合することで、封を開けた途端、“焼きたてパン”のような香り漂うパイ生地に。それに合わせてチョコも改良。次々に食べたくなるパイの実に生まれ変わりました。

「香ばしいパイ生地とケンカをしないよう、後味が甘く、くどくないバランスのいい配合に調整しました。香ばしい香りやサックサク感も味わっていただくために、開封後はなるべく早く食べていただければと思います」(原)

ココアパウダーを生地に練り込んだ第二の定番商品

これまで70種類を超えるセカンドフレーバーを発売してきたパイの実ですが、そのほとんどは、チョコレートフィリングでフレーバーの風味や味わいを表現してきました。パイの生地に定番以外の素材を加えると、思うような生地に仕上がらないという難しさから、フレーバーを表現するのは、もっぱらチョコレートの役目としてきたのです。

しかし、2019年のリニューアル前後からは、この課題に果敢に挑戦。新たな素材をパイ生地にも練り込み、フレーバーの風味や味わいを、パイ生地とチョコ、両方で表現した数々の新作フレーバーを展開してきました。

左「パイの実<ご褒美マスカットのタルト>」/右「パイの実<魅惑のアップルパイ>」(現在は販売を終了)

例えば、昨年12月に発売した「パイの実<魅惑のアップルパイ>」では生地に発酵バターを練り込みました。コクのある生地と青森県産紅玉りんご果汁を使用したチョコがマッチ。“本格的なアップルパイ”のようなパイの実に仕上がりました。また、今年8月発売の「パイの実<ご褒美マスカットのタルト>」では、発酵バターに加え、隠し味としてシナモンも生地に練り込みました。

「チョコを味わうパイの実<深みショコラ>」

また、“第二の柱”にするべく開発した「チョコを味わうパイの実<深みショコラ>」では、生地にココアパウダーを練り込むことに成功しました。

「ココアパウダーは、パイ生地に含まれるグルテンに影響を与えるため、生地が延びにくくなるという性質があります。生地の延びが悪いと、空気をしっかり抱え込むことができず、熱を加えても思うようにふくらみません。それを解決するために相当の時間を要したと、深みショコラ開発当初の担当者から聞いています」(原)

ほろ苦いココアパウダー入りの生地には、通常よりカカオ分をアップしたチョコレートを閉じ込め、深い味わいを感じていただける商品に仕上げました。第二の定番品として確立しつつある「深みショコラ」をぜひ味わってみてください。

パイの相棒がチョコレートである理由

実はチョコレートは、パイ生地にとって相性のいい素材。時間が経ってもパイのサクサク感を保ちやすいのです。

例えば、洋菓子店で買ったミルフィーユやアップルパイを家で食べたら、パイ生地がしっとりしていてがっかりした経験はありませんか? これは、フィリングに水分が多く含まれているせい。

「作りたてであれば問題ないですが、時間が経つほどクリームやフルーツの水分をパイが吸ってしまい、しっとりしてしまうのです。これに対してチョコレートは、水分が3%以下ととても少ない。パイ生地と合体させても、長い時間、サクサク感が保てます」(ロッテ中央研究所 チョコ・ビス研究部 ビスケット研究課 五十嵐由香子)

つまり、一定期間、流通できるパイ菓子を作るには、パイの相棒は“チョコレート”がふさわしい。相棒がクリームやジャムでは流通させることが困難なのです。

パイの実のフレーバー展開が難しい理由はそこにあります。どんな素材を用いようと、パイの中に閉じ込めるものは、“チョコレート”として成立させなくてはなりません。

「特に難しいのがいちごなどのフルーツフレーバーです。みずみずしさが魅力のフルーツを、水分の少ないチョコレートで表現するというのは至難の業。果肉感を演出するなどしてみずみずしさを感じていただけるような工夫をしています。例えば、「パイの実<ご褒美マスカットのタルト>」は、マスカットの果肉と皮の渋みを表現できるように考えました。風味や味わいに納得ができても、チョコレートの物性が変われば、パイ生地にきれいに入っていかないことも。検証を繰り返すことで、打開策を見つけていきます」(原)

パイの実の魅力をそのままに、多くのフレーバーを生み出すために、これからも研究者たちの奮闘は続きます。

進化を続けるパイの実にご期待ください。

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