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フランスの造形作家、ローレンス・ジェンケルさんの作品“キャンディ・ネイションズ”のうち、アンドラ国旗をデザインしたオブジェを取り上げた記念切手(アンドラ公国 2018年発行)

あるモノを包んで両端をキュッとねじってリボン留めするラッピング方法を“キャンディ包み”と言います。言うまでもなく、お菓子のキャンディの包装方法がもとになった言葉ですが、キャンディを一つずつ包装紙でくるむようになったのは、19世紀の産業革命の時代と考えられています。

それ以前のキャンディは生産量も少なく、個々の製品が流通する地域も限られており、販売方法も街頭で瓶に入れて量り売りするのが一般的でした。これに対して、産業革命以降、さまざまな種類のキャンディが大量に生産・販売され、市場が急速に拡大すると、流通過程での品質の劣化を防ぐため、個包装が必要になったわけです。

当初、キャンディの個包装は手作業で行われていましたが、必ずしも、現在の“キャンディ包み”ばかりだったわけではなく、角形のキャンディを包装紙の辺と平行になるように置き、両側から合わせるように包む“合わせ包み(キャラメル包みとも)”もかなりありました。

これに対して、1914年、米国のネッコ社(NECCO:New England Confectionery Company)が自動包装機を導入。以後、“キャンディ包み”で個包装されたキャンディが、人間の手に触れることなく、衛生的に大量生産されるようになり、“キャンディ包み”がキャンディのイメージとして定着していくことになります。

そんなキャンディ包みのイメージと世界各国の国旗を組み合わせた“キャンディ・ネイションズ”という現代アートの作品をご存じでしょうか。

作者のローレンス・ジェンケルさんは、1965年、フランスのブールジュ生まれ。独学で美術を学び、1990年代にカンヌで創作活動を開始。現在は、イタリアとの国境に近いヴァロリスを拠点に活動する女性造形作家です。

“キャンディ・ネイションズ”は、2011年、カンヌでG20サミットが開催されたことを記念して、参加各国の国旗をデザインした巨大なキャンディのオブジェとして作られたのが最初です。このオブジェが大いに評判になったことから、その後、“キャンディ・ネイションズ”はさまざまな国のバージョンが作られるようになり、彼女の代表作として知られるようになりました。

ちなみに、日本も2011年のカンヌ・サミットの参加国でもありますので、キャンディ・ネイションズの中には日の丸をデザインした作品も含まれています。仮に、各国の国旗をデザインした包み紙の中に、それぞれのお国柄がしのばれるキャンディを入れるとしたら、日本の場合は“小梅ちゃん”が一番しっくりくるような気がします。

2人の元首を持つアンドラ公国

さて、今回ご紹介の切手は、2018年、フランス・スペイン国境のピレネー山脈中腹に位置するアンドラ公国(以下、アンドラ)が発行したもので、同国南部、エスカルデス=エンゴルダニ(アスカルダズ=アングルダーニとも)教区に置かれた、アンドラ国旗のオブジェが取り上げられています。

アンドラはスペイン・カタルーニャ州のウルヘル司教とフランス大統領の2名を共同元首とする立憲君主国で、面積468平方キロ、人口約8万4000人の小さな国。欧州最大規模の温泉遊園地のカルデアやスキーリゾートなどを擁する観光立国です。公用語はカタルーニャ語ですが、スペイン語、フランス語、ポルトガル語も話されています。

アンドラでのキャンディ・ネイションズの展示は、2017年7~9月、エスカルデス=エンゴルダニ教区内に、アンドラ国旗を含む16カ国の国旗をデザインしたオブジェが配置され、会期中には作者のジェンケルさんを招いてのワークショップも行われました。また、会期終了後、オブジェの大半は撤去されましたが、アンドラ国旗をかたどったオブジェのみはイベント開催の記念碑として教区内で永久保存されており、2018年発行の記念切手にも取り上げられたというわけです。

内藤陽介(ないとう・ようすけ)
郵便学者。切手をはじめ郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続ける。著書に『日の本切手 美女かるた』(日本郵趣出版)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)ほか。
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