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アイスランド クリスマス切手
2018年にアイスランドが発行したクリスマス切手。クリスマスのジンジャー・クッキー、“ピッパクック”が取り上げられている。切手には額面がなく、送ることができる重量と用途が記載されている

北欧の島国、アイスランドでは毎年12月12日から1月6日までがクリスマス・シーズンになっています。

もともと、アイスランドには雷神トールをはじめとする北欧神話の神々への信仰があり、一年で最も日照時間の短い冬至(その日以降、日照時間が徐々に長くなっていく)の日を“光の祝祭”として祝っていました。

995年にノルウェー王として即位したオーラヴ2世は、自身の影響下にあったアイスランドの改宗を進め、1000年以降、アイスランドはキリスト教化されます。ただし、土着の信仰は色濃く残り、キリスト教のクリスマスと“光の祝祭”が結びついた独特の風習が生まれました。

たとえば、アイスランドでは“サンタクロース”が13人います。厳密にいうと、聖ニコラウス(ニコラオスとも)に由来するサンタクロースというよりも、神話に登場する妖精(トロール)の一種ともいうべきもので、アイスランド語では“ヨウラスヴェイナル(jólasveinar)”と呼ばれています。13人のサンタのうち、最初の1人は12月12日の夜に街へ降りて来て、以後、毎日1人ずつ降りてきます。そして、24日に全員がそろうと、今度は、最初に来たサンタが25日に街を去り、以後、毎日1人ずつ去っていき、1月6日に最後の1人が去っていくと、人々が大きなかがり火をたいて、クリスマス・シーズンが終わります。

アイスランドの食文化はデンマークの影響が強く、スイーツに関しては、デンマークのクリスマスで伝統的に食されるライスプディングのほか、チョコレートがけのアーモンドマカロンのビスケットに、チョコレートクリームを詰めた“サラ”が定番です。このお菓子は、1911年、デンマークを訪れたフランスの大女優、サラ・ベルナール(当時67歳)のために、地元のパティシエ、ヨハネス・スティーンが作ったのが始まりとされています。

欧米のキリスト教文化圏でクリスマスの風物詩となっているジンジャー・クッキーに関しては、アイスランドでは“ピッパクック”と呼ばれ、シナモンやジンジャーなどのスパイスをきかせた味付けで、しっとりとした食感です。これに対して、デンマークのクリスマス・クッキーとして知られる“ブルーンケーア”は、必ずしもジンジャーを使わず、砂糖の代わりにブルーン・ファリン(粗糖と呼ばれる茶色い砂糖にシロップを混ぜた甘味料)とかんすい(日本では中華麺によく使われる)を用いてクリスピーな食感に仕上げるので、ピッパクックとはかなり雰囲気が異なります。

むしろ、アイスランドのピッパクックは、その名前からして、スウェーデンのジンジャー・クッキー、“ペッパルカーコル”に近いのかもしれません。ちなみに、ペッパルカーコルは、ジンジャーに加え、クローブやシナモンなどのスパイスをきかせており、黒蜜のようなダークシロップで甘みをつけるので、焼き上がりは少ししっとりしています。

2018年にアイスランドが発行したクリスマス切手は、伝統的なピッパクックを取り上げたもので、50グラムまでのヨーロッパ域内宛ての切手はツリーの上に飾る星形、同じくその他諸外国宛ての切手はクリスマスツリー形です。日本では、国内外を問わず、書状の基本料金は25グラムまでとなっていますので、アイスランドのクリスマス切手は2倍の重量までOKというわけですが、これは、厚手のクリスマスカードなどを送る人が多いことを想定しているからでしょう。なお、切手の右上に書かれている“Jól(ヨール)”はアイスランド語で“クリスマス”の意味です。

内藤陽介(ないとう・ようすけ)
郵便学者。切手をはじめ郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続ける。著書に『日の本切手 美女かるた』(日本郵趣出版)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)ほか。
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