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「トーキョーチョコレート」と2019年のデモンストレーションの様子

ロッテグループの一員であるメリーチョコレートカムパニーの研究開発チームを率いる部長であり、シェフショコラティエとして活躍する大石茂之さん。2019年には、海外戦略ブランド「トーキョーチョコレート」が、世界最大のチョコレートのイベント「サロン・デュ・ショコラ パリ」にて、フランスで最も権威あるチョコレート愛好会「C.C.C.」(Club des Croqueurs de Chocolat クラブ・デ・クロクール・ド・ショコラ)より「世界の優秀なショコラティエ100」に選出されました。“横顔の少女”のロゴで親しまれてきた日本のチョコレートを世界に知らしめた立役者に、チョコレート作りの裏側を聞きました。

体で技術を覚えた15年

――大石さんは大学卒業後にメリーチョコレートカムパニーに入社しましたが、 “ショコラティエ”になりたいと思ってのことですか?

いえ、今から25年前のことですから、“ショコラティエ”という職業も知りませんでした。甘い物が好きなので、チョコレートを作るのもいいなと思う程度で。幸運にも入社でき、最初に配属されたのが生産部でした。

メリーチョコレートカムパニーの大石茂之さん

――実際にチョコレートを作ってみて、どんなことを感じましたか?

当時の私は、板チョコや焼き菓子しかチョコレート系のお菓子は見たことがありませんから、ガナッシュ(生クリームを加えたチョコレート)との出合いはかなり衝撃でした。チョコレートがこんなにおいしくなるものなのか、という驚きがありましたね。

――生産部ではチョコレート以外の商品も作ったのですか?

主に作っていたのはガナッシュですが、約15年所属していましたので、社内のチョコレートに関連した大抵の商品は作っています。また、ムースやゼリーなどのデザート菓子も作りました。私が入社した頃はマニュアルもない時代で、分からないことは先輩方に聞くしかありません。当時は厳しい先輩が多くて、叱られながら体で覚えていきました(笑)。その経験が今に役立っています。

――2010年に製品開発室(現 研究開発部)の配属となりました。開発室ではどのような仕事だったのでしょうか?

チョコレートはもちろん、焼き菓子やゼリーといったメリーチョコレートの商品すべてにおいて最終的な確認をするのがメインで、その合間に、新しい商品を開発していました。

――生産部の仕事とはかなり異なると思いますが、当時、戸惑いはなかったですか?

というよりは、経験が非常に役立ちましたね。商品を手に取り試食するだけで、例えば、「こういう形になるのは、あの機械で作っているからだろう」といった理解ができますし、「もう少しこの素材を入れたほうがいい」「もっと空気を入れたほうがいい」といった具体的な改善策も想像がつきます。人が作ったものだからこそ客観的視点に立てますし、新たな“気づき”があるのだと思います。

――開発に移ってから、自身で商品化した思い出の品と言えば?

「黒糖焼酎のマロングラッセ」でしょうか。一般的にはブランデーに漬け込んで作るマロングラッセを、奄美の黒糖焼酎「朝日」に漬け込んで作った商品です。マロングラッセは、和のブランド「セゾン ド セツコ」の商品なので、日本のお酒を合わせたいと思って探したところ、黒糖焼酎にたどり着きました。舌に黒糖の甘みを感じるお酒ですが、それがマロンにすごく合いました。

大石さんが商品化を手掛けたセゾン ド セツコ「黒糖焼酎のマロングラッセ」

――マロングラッセとは意外です。

確かにチョコレートじゃないですね(笑)。開発に移って最初に商品化した商品なので、印象が強いのだと思います。社内でも、この商品を私が担当したことを知っている人は少ないかもしれません。

――現在は研究開発部の部長職に就いていますが、自ら商品を作る機会はあるのでしょうか?

ご想像の通り、会議や書類確認の作業に追われる毎日なので、実際に最初から最後まで手をかけて私が直接作るのは、品評会に出品する商品と、自分の名前を冠した商品ですね。メリーの商品は開発チームのメンバーが試作をし、私が監修しています。

最年少で初出展のプロジェクトメンバーに

――その「品評会」とは、チョコレートのイベント「サロン・デュ・ショコラ パリ」の会期中に行われるC.C.C.品評会のことですね。メリーチョコレートは、2000年以降、同イベントに幾度も出展し、品評会では数々の賞を受賞しています。大石さんは、初出展からプロジェクトメンバーですが当時のことを覚えていますか?

はい、入社5年目の年でした。最年少でしたから、“荷物持ち”として参加しました(笑)。それまで海外旅行も未体験。初の海外で「サロン・デュ・ショコラ パリ」の場に立てるのは、大変光栄でした。

初出展の際のブースの様子とカタログ

――イベントでの大石さんの仕事は?

主にはイベント会場でのチョコレート作り(実演)やブースでの説明、会場でのデモンストレーションなどです。参加者とコミュニケーションを取るのが楽しかったですね。

――フランス語もお得意で?

いえ、話せません。今もです(笑)。ただ現場で求められることは、ほぼチョコレートの作り方に関することなので、一度、通訳の方とのやりとりを聞いたら、あとは一人でも何とか通じます。温度帯などは数字ですし、作り方の説明にはジェスチャーも有効。私自身がほかのショコラティエに質問する内容もチョコレートのことですから、知っている単語を並べればだいたい理解できます。ただし会場から外に出たら、会話は成り立ちません(笑)。

――“世界最大のチョコレートのイベント”にはどのような印象を持ちましたか?

一番は、チョコレートでこんなに人が集まるのか! という驚きですね。また、チョコレートのおいしさにも感動しました。ガナッシュもプラリネ(すりつぶしたナッツ類を混ぜたチョコレート)も実に高レベル。当時は生産部でガナッシュを作っていましたので、口溶けの良さや味の出し方など、学ぶことが多かったです。

にぎわう出展ブースの様子(2014年)

――メリーチョコレートは、毎回、和素材を巧みに用いた商品をC.C.C.品評会に出品していますが、回を重ねるにつれ、審査員の評価や見方に変化を感じることはありますか?

そうですね。世界的な和食ブームを背景に、和食が持つ奥ゆかしさや味の複雑さへの関心が高まっていて、チョコレートにも、より繊細な味が求められるようになったと思います。例えば、2016年の審査員と話す機会があり、フランス人ショコラティエから、「『和のプラリネ』は隠し味に黒ごまを使っているだろう?」と聞かれました。実際には白ごまでしたが(笑)、審査員の皆さんが、我々の作るチョコレートを品評する際、「チョコレートの味を高めている和素材とは何か?」を探究しつつ、審査をしているのだなと実感しました。

――昨年、大石チームが作り出す「トーキョーチョコレート」はC.C.C.から「世界の優秀なショコラティエ100」に選出されました。このときの感想をお聞かせください。

うれしかったですね。「世界の100」に選ばれたのは、本当に光栄です。会場の後方にはそうそうたるショコラティエが控えていらっしゃったので、すごいところで選ばれたのだな、と。壇上に上がる前から鳥肌が立っていました。

2019年「世界の優秀なショコラティエ100」として表彰され、
「レ メイヤー デ メイヤーアワード(最高のショコラティエ賞)」を受賞。右はチームのメンバーと

チョコレートの味を高める“和素材”

――「サロン・デュ・ショコラ パリ」では、現地のお客様からの反応はいかがですか?

おかげさまでリピーターが多く、毎年、最後には数が足りなくなってしまいます。海外で店舗展開はしていないので、メリーチョコレートはフランスでは購入できません。ですから、「サロン・デュ・ショコラ パリ」に訪れる方からは、よく「この抹茶のガナッシュが食べたくて一年待ったのよ」と言われます。それを聞くと、本当にうれしいですね。

ブースでの実演の様子(2019年)

――毎年、売り切れてしまうのですね。チョコレートは現地で作っているのですか?

以前は、実演するチョコレート以外は日本で作って持って行くようにしていたのですが、ガナッシュは新鮮さが命なので、5年ほど前から、フランス在住のショコラティエに厨房(ちゅうぼう)をお借りして現地で作っています。2~3人のメンバーが2日間、8時から17時まで厨房にこもって作業をして、MAXまで生産しています。

――先ほどお話に出てきた「抹茶のガナッシュ」ですが、最初は現地の方々に受け入れられなかったと伺いました。

今でこそ抹茶は多くの国で知られていますが、当時は抹茶(フランス語でテベール)と説明しても通じません。緑色をしたチョコレートを見せると、誰もがピスタチオ味のチョコレートだと思って口にする。ところが抹茶には苦みがあります。それが口に合わず、床に吐き出す方もいらっしゃいました。抹茶への認知度が高まったのは、2008年ごろでしょうか。緑色の正体が「テベール」であることに納得し、苦みが魅力の一つだと捉えていただけるようになりました。抹茶自体を広めたのは私たちの功績ではないかも知れませんが(笑)、チョコレートに抹茶が合うことを広めたのは私たちだという自負があります。抹茶を使う海外のショコラティエも増えましたね。厨房をお借りしているショコラティエからも、パリに来るときには日本から上質な抹茶を持ってきて欲しいと頼まれます。

2016年C.C.C.品評会のグランプリ「ショコラアワード」 と、外国部門最高位
「ゴールドタブレット(金賞)」をW受賞。下は受賞作「トーキョーチョコレート」

――和素材と言えば、日本酒を用いた商品も多いですね。

はい、抹茶のガナッシュも日本酒を使用しています。最初はジンなどの洋酒を使っていたのですが、7~8年前から抹茶にはアルコールの香りが柔らかい日本酒が合うことがわかり、変えました。ちなみに現在使っているのは、山形の純米大吟醸「出羽桜 一路」です。

――大石さんは大のお酒好きだと伺いましたが、それがチョコレート作りに生かされているのですね。

それは間違いありません(笑)。お酒に興味を持ったのは大学生の頃。アルバイト先の酒屋の店主が下戸だったため、私が代わりに試飲して仕入れを手伝っていました。酒蔵の営業の皆さんが持ち込むお酒を飲んでいるうちに知識も増え、口も肥えていきました。実はショコラティエになって良かったと思うことの一つが、酒蔵に仕事で訪問できること!(笑) 酒蔵では聞きたいことが多々あるので、プライベートで酒蔵に行くと、一緒に見学する皆さんに迷惑がかかります。でも、仕事での訪問なら周囲を気にせずいくらでも質問できます。酒好きのショコラティエは格好の仕事です。

2010年に出品され話題となった「MINAMO」。
東京産の日本酒やワインを使った、東京の空を表現した美しいチョコレート

――ほかにはどんなところから新商品の発想を得るのでしょうか?

旅行から多くのヒントを得ていますね。関東近県の温泉地によく出かけるのですが、スーパー、道の駅、農協などに立ち寄って、果物や野菜といった旬の食材や土地の物産をチェックします。見つけた食材は、まずお酒や料理に合うかを考えます。チョコレートに合わせられるかに思いを巡らすのは最後。そしていいと思ったら購入し、実際に合わせてみます。

目指すのは「永遠に残る」チョコレート

――これまで商品化したチョコレートのなかで、ご自身が「一番の発見」と自負する食材があれば教えてください。

愛知県・西尾にあるバラ園のバラの花びらですね。2018年のC.C.C.品評会で金賞を受賞した「薔薇」で使用しています。特に香りがいい“朝摘みのバラ”を届けてもらい、それを純米吟醸酒「出羽桜 一路」に漬け込んで使っているのですが、バラの香りと味わいがしっかり楽しめるガナッシュに仕上がっています。

左下が2018年C.C.C.品評会で金賞を受賞した「薔薇」

――素材のバラはどうやって見つけたのですか? やはり旅行で?

旅行ではなく、仕事で訪れた展示会でした。バラのジャムを販売しているブースのディスプレイ用のバラの花びらから香る“匂い”にひらめいたのです。バラの香りって日本人には芳香剤のイメージがあると思うのですが、このバラは違った。瞬間的にチョコレートの素材としていけると確信し、その場で「ぜひ売って欲しい」と交渉したのですが、断られてしまい、後日、改めて電話を入れて説得しました。

――2017年の金賞受賞作「和のプラリネ」では醤油を加えています。これも驚きです。

こがし醤油を入れて塩味をつけました。私が家庭で使っている調味料なのですが、埼玉県「弓削多醤油」の木おけ仕込みの醤油です。私自身が日常使いしている素材から発想を得ることが多いのですが、お酒と同じで自分が好きなものだからだと思いますね。

――どの素材をどのくらい加えるか、試行錯誤を重ねていると思うのですが、気をつけていることはありますか?

一番芯にしたい素材とチョコレート、どちらかに偏ることなく、バランス良く表現することを理想としています。それにはカカオとの相性も大事。例えば「薔薇」にはドミニカ産のカカオ64%を使用していますが、ドミニカ産のカカオは酸味がしっかりあるため、それがバラの酸味とケンカすることなく融合する。だからドミニカ産を選びました。カカオの産地別のチョコレートだけでも100種類近くありますが、酸味が強いもの、フローラルな香りが強いもの、カカオ感が強いものなど特長があり、タイプ別に自分の好みのカカオが頭のなかに入っています。そこから、素材との組み合わせで何種類か候補を挙げて、試作に入ります。

――何通りくらいの組み合わせを試すのでしょうか?

最低でも10通りは試しますね。70通りほど作ったこともあります。いくらでも組み合わせはできるので、やろうと思ったら終わりがない(笑)。審査に提出してからも、そのときは完璧と思ったはずなのに、「あと3滴、この素材を加えておけば良かった」などと思い巡らすことがほとんどです。

――デザインはどなたが担当されているのですか?

社内のデザイナーと話し合いながら決めています。「薔薇」は私の発案です。薔薇の花びら1枚が載っているイメージをデザイナーに伝えました。デザインを考えるときは、口の中に入ったときも想像します。上に載るもので味が変わってしまうのは本末転倒ですから。

――今後はどのようなチョコレートを作ってみたいですか?

一人でも多くの方に「一番おいしい」と言ってもらえるチョコレートを作りたいですね。お菓子も10年くらいのスパンで性質が変わるものだと思いますが、できれば先取りしたい。時代が変わっても、「やっぱりおいしいよね」と多くの人に食べてもらえ、永遠に残るチョコレートを作るのが目標です。

――C.C.C.品評会に出品されるショコラティエは、多くがご自分のお店を持つ方々で、大石さんのようにチョコレート作り以外の仕事も抱える会社員は少ないと思います。そのことをハンディに感じることはありますか?

確かに、書類に印鑑を押すことがメインであるショコラティエは私だけかもしれません(笑)。でも、時間がないからこそ、集中して作業ができているようにも思います。それに、日頃、部長職をしながら部下のアイデアを見ていますので、私が試作する商品には、それらがヒントになっています。部署内には斬新で真新しいアイデアが飛び交っています。会社員であることはハンディではなく、むしろ強みだと思いますね。

大石茂之(おおいし・しげゆき)
大石茂之(おおいし・しげゆき)
1995年株式会社メリーチョコレートカムパニーに入社。生産本部大森工場でチョコレートの生産に携わる。2000年メリーチョコレートが初めて出展したサロン・デュ・ショコラ パリのプロジェクトメンバーとして参加。10年製品開発室(現 研究開発部)に配属。メリーチョコレートの製品の開発に従事する。14年シェフショコラティエとして、サロン・デュ・ショコラ パリで最高位のゴールドタブレットを初めて獲得。その後、ゴールドタブレットの16年から18年の3年連続獲得にも貢献。19年にはトップショコラティエを務めるメリーチョコレートの海外戦略ブランド「トーキョーチョコレート™」が「世界の優秀なショコラティエ100」として表彰され、「レ メイヤー デ メイヤーアワード(最高のショコラティエ賞)」を受賞した。

メリーチョコレートカムパニー
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