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2019年に発行された“マレーシア・デイ”の切手。冷たいデザート3種と紅茶と、コンデンス・ミルクを混ぜ合わせたテー・タリックが描かれている。

1963年9月16日にマラヤ連邦とシンガポール、英領北ボルネオ、サラワクが統合し、マレーシア連邦が成立(ただし、シンガポールは1965年8月9日に連邦から分離独立)したことにちなみ、毎年9月16日は“マレーシア・デイ”としてマレーシアの祝日になっており、この日に合わせて、さまざまな角度からマレーシアを紹介する切手が発行されています。

2019年のマレーシア・デイには“デザート”をテーマに3種の切手が発行されましたが、そのうちの60セン(¢)切手には南国ならではのスイーツが取り上げられていますので、順番にご紹介していきましょう。

まず、右上に取り上げられている“プディン・クラパ(Puding Kelapa)”は、ココナッツ・ミルクに砂糖を加え、コーンスターチもしくは小麦でんぷんで固めたもので、ココナッツ・プリンと訳されることもあります。マレーシアのみならず、東南アジアから中国南部にかけて広く見られるスイーツですが、ボルネオ島のコタキナバルでは、切手に描かれているようにココナッツの実をくりぬいた容器に入れて供されるのが定番です。

その下には、パーム・シュガー(グラ・アポン)を使ったアイスクリームの“アイス・クリム・グラ・アポン(Ais krim Gula Apong)”が見えます。

日本で一般に用いられている白砂糖は原料となるサトウキビを押しつぶして煮詰めたものを精製して不純物を除いて作られるのに対して、パーム・シュガーは、パルミラヤシやナツメヤシ、サトウヤシ、ニッパヤシなどのヤシの樹液を煮詰めた後、精製せず、そのままの状態で使用するため、茶色がかった色味となります。パーム・シュガーは、ミネラルやポリフェノールなどが豊富に含まれており、白砂糖に比べてまろやかで後味が優しい点が特徴です。

切手に描かれたアイスクリームが茶色っぽい色で描かれているのも、パーム・シュガーを使っていることを表現するためでしょう。

なお、同じヤシの仲間でもココヤシの実を原料とする砂糖は“ココナッツ・シュガー”と呼ばれ、パーム・シュガーとは区別されます。

左下に描かれている“ブブル・チャ・チャ(Bubur Cha-cha)”は、ココナッツ・ミルクと牛乳を混ぜたものに、緑豆やサツマイモ、紫芋、里芋などを煮たもの、タピオカ、白玉団子を入れて温め、砂糖と塩で味を調えたもので、夏は冷やして、冬は温かいまま食べます。切手の絵柄では断定はできませんが、アイスクリームやココナッツ・プリンと同じテーブルに置かれているところを見ると、暑い盛りに冷製のデザートとして出されたものと考えて良さそうです。

甘いデザートのお供は泡立つお茶で

最後に、左上のジョッキに注がれている“テー・タリック(Teh Tarik)”についても触れておきましょう。

テー・タリックは、紅茶とコンデンス・ミルクを高所から4回繰り返して注ぎ、混ぜ合わせたお茶で、茶をカップに注ぐ際にポットを“引く(マレー語でタリック)”のがその名の由来です。熱い茶を高所から注ぐことで紅茶の上には泡ができ、適度に冷めて飲みやすい温度になりますが、さらに、氷を入れて冷やすこともあります。

切手では泡が立っていることは確認できますが、そこに氷が浮かんでいるかどうかはちょっと微妙な感じです。僕の個人的な意見を言わせてもらうなら、冷たいものを食べすぎてお腹を壊さないよう、お茶くらいは温かいものの方が良いような気もしますね。

内藤陽介(ないとう・ようすけ)
郵便学者。切手をはじめ郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続ける。著書に『日の本切手 美女かるた』(日本郵趣出版)、『みんな大好き陰謀論』(ビジネス社)、『日本人に忘れられたガダルカナル島の近現代史』(扶桑社)など多数。
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