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2016年8月8日、トルコが発行した「我々の郷土料理:アナトリア東部」のうち、エルズルムが発祥の地とされるカダイフ・ドルマスを取り上げた1枚。

中華料理、フランス料理とともに世界3大料理の一つとされるトルコ料理では、“天使の髪”とも呼ばれる糸状の生地、カダイフ(カダユフとも)がよく使われます。

カダイフは、水に溶いた小麦粉などを細かい網の目を通して、熱したローラー、もしくは回転する円形の鉄板に糸状に押し出して成形するもので、アラブ世界では一般に“クナーファ”と呼ばれています。

その歴史は、10-12世紀に広く地中海世界を支配したイスマーイール派(イスラム教シーア派の一派)王朝のファーティマ朝の時代にさかのぼり、当時、スンニ派イスラムの盟主としてファーティマ朝と対立していたアッバース朝の帝都、バグダッドを中心に集成された『千夜一夜物語』にも、食材としてのクナーファがしばしば登場します。

クナーファないしはカダイフの生地は揚げても焼いてもパリッとした食感が楽しめるため、エビなどシーフードの揚げ物の衣としてもよく用いられますが、これをお菓子に使うと、今回ご紹介の切手で取り上げている“カダイフ・ドルマス”になります。

“ドルマ”とはトルコ語で“詰め物”の意味で、スパイシーなピラフをピーマンの中に詰めた“ビベル・ドルマス”や、ムール貝にピラフを詰めた“ミディエ・ドルマス”が食事として有名ですが、カダイフ・ドルマスは、クルミやピスタチオなどのナッツ類をカダイフで巻き、卵と牛乳を混ぜた液に浸してから揚げたもので、仕上げに甘いシロップをたっぷりかけるのがお約束です。

トルコではカダイフは冷凍のものなども市販されていて簡単に入手できますので、カダイフ・ドルマスは一般家庭でもおやつとして作られますが、レストランなどでは、切手の写真のように、クラッシュしたナッツをまぶして盛り付けされたものが出てくることもあります。

カダイフ・ドルマスの本家はどこ?

ところで、現在のようなカダイフ・ドルマスは、17-18世紀頃、トルコ東部の都市、エルズルムで考案され、その後、オスマン帝国の支配下にあった東地中海、北アフリカ、バルカン半島、黒海北岸、コーカサス地方などに拡散し、似たようなお菓子が作られるようになったとするのが一般的な理解です。

ところが、近年、ギリシャやアルメニアが、さまざまな理屈をつけて自分たちこそがカダイフ・ドルマスの“発祥の地”だとして名乗りを上げているため、トルコとしては、自分たちこそがカダイフ・ドルマスの本家であることを強調しています。

今回ご紹介の切手も、その一環として、「我々の郷土料理:アナトリア東部」として4種セットで発行されたものの一種で、郵便物に貼られて全世界に配達されることで、人々にカダイフ・ドルマスがトルコのお菓子であることをアピールする意図が込められています。

内藤陽介(ないとう・ようすけ)
郵便学者。切手をはじめ郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続ける。著書に『日の本切手 美女かるた』(日本郵趣出版)、『みんな大好き陰謀論』(ビジネス社)、『日本人に忘れられたガダルカナル島の近現代史』(扶桑社)など多数。
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